(6) タイ、バンコク、トゥクトゥク物語【2日目で恋人、ノンちゃん】
さ、行きましょう。
ノンちゃんは、私の手を取って混雑したワットポーの入口へ向かって歩き出したのだった。
とても新鮮だった。
というか、キューンと心を持って行かれたと言うか。
こんな風に女の子と手をつないだのは、いつからぶりだろうか。
記憶を遡ってみたが、かなり昔の学生時代の朧気(おぼろげ)な記憶しか残っていない。
手をつなぐというスキンシップ。
この行為が、これほど大人になった私を魅了するとは考えもしなかったのだ。
無防備だった手の平に受けた柔らかな感触。
脳へ直接、ピクン、ドクンと少しピンク色の信号が送られて行くのだ。
これまで、ビジネスシーンなどで女性と握手する機会は多々あったが、脳へ信号を送られることなどあり得なかった。
もちろん、それで当たり前。ただの仕事の挨拶だ。
でも、今は違う。
何といっても、こちらは気儘な一人旅の途中なのだ。
それに、ここは南国リゾート、タイなのだ。
絡まった指の感触が堪らない。
手をつなぎ始めて、2~3分ぐらいだったろうか、拝観料を払う入り口辺りに来て私の左手は自然な形で解放されたのだった。
あーッ、離れて行く、、今少し、、、
入り口は、タイ人用、外国人用と2レーンに分かれており、私は、外国人専用と書かれたレーンに並んだ。
タイのお寺へ拝観する時は拝観料が必要となる。(有名どころの大きなお寺では有料なところが多い。)
これは、外国人に限ったことでタイ人は無料となっている。
入り口の係の人へ50バーツ程の拝観料を払って中へ入った。
ノンちゃんは、私が、レーンを通って中に入る間中ずっと見守ってくれていた。
心配性なのかも知れないが、その優しさがとても嬉しかった。
このお寺、名前はワットポーと言い、タイでは1,2を争う観光スポットだったのだ。
大きな涅槃仏が有名で、タイへ行ったことのある方なら大半がここを訪れているのではないだろうか。
また、タイ古式マッサージの施術法を教えている寺としても有名だった。
その事は、日本にあるタイ古式マッサージ店に、技術をワットポーで習得した旨の免状が壁に掲げてある事からも窺い知れるだろう。
さてさて、このワットポー、朝早くからたくさんの人がお参りに来ると聞いていたが、昼間もすごい賑わいで地元のタイ人、外国人観光客共にすごい人出だった。
ガイドのノンちゃんは、私が迷子にならない様に終始手を引いてあっちこっちと案内してくれた。
1時間ぐらい滞在しただろうか。
たくさん写真を撮ってもらって、旅の思い出としては十分に価値のある観光であった。
実は、ワットポーを観光している間、運転手のKenは寺の外でトゥクトゥクに跨って待機していてくれたのだった。
理由は簡単、寺の周辺は駐車禁止だったからだ。
なるほど、そういう事か。
寺へ行く事を頼んだ時から、この事を想定してノンちゃんをガイド役として連れて来てくれたのだろう。
ガイドとしては気が利いているし彼はとても優秀であった。
ノンちゃんの方も、手を握り、時には腕を組んでエスコートしてくれる満点ガイドさんだった。
距離がグッと縮まっただけじゃなく、一緒に時間を過ごす内に既に恋人同士になったんじゃないかと錯覚に捕らわれ始めてもいた。
ヤバイな。
もし私が公務員か政府の要人なら、こんな感じのハニートラップでイチコロなんだろうなと嫌な想像が頭をよぎった。
だからという分けでもないが、ピカピカと煌びやかに横たわる涅槃仏に、本日ここに凡人としてやって来れたことに感謝してお礼をつぶやいて置いた。
凡人、is the best.
最高だぜ! ありがとう。
★★★
ボス、如何でしたか、ワットポー。
見ごたえがあったのではありませんか?
ああ、楽しかったよ。Ken、ありがとう。
そうですか。それは、良かったですね。
ノン、ちゃんとボスの面倒を見てくれたのか。
Kenがノンちゃんに尋ねると、さあ、どうかしらね~ぇ、と私の方を見て小首をかしげて尋ね返す仕草をしてみせた。
キューン!、かわいい。
大丈夫だ、Ken。
ノンちゃん、立派なガイドさんぶりだったよ。問題なしだ。
そうですか。ボスがそうおっしゃるなら大丈夫ですね。
じゃ、ノンの借りたズボンを返して、少し休憩しましょう。
Kenは、この後の計画を練ったらしく、そのことを休憩しながら伝えたいようだった。
到着したのは、ローカルのヌードルショップだった。
ここのクイッティアウ(タイ風のラーメン)は旨いですよ。
お姉さん、並盛2つと、大盛一つ、と手際よく注文して、コーラの蓋を栓抜きでポンと開けてくれた。
このクイッティアウという食べ物、スープの味はいろいろ選べるようになっていた。
今回、私達が食べたのはオーソドックスな鶏がらスープ味。
麺は透明で、細いところてんのようで、鶏肉のミンチ、ネギ、もやし、パクチー、そしてワンタンの皮の揚げたものが一片添えてあった。
量は少な目で、並盛だと日本のラーメンの半分ぐらいという感じだった。
ボス、この後ちょっと、お連れしたいところがあるんですが、、
ん、なんだ。
ちょっと、声のトーンがおかしいぞ。かなり控えめな感じだ。
もしよろしければ、お土産屋さんとかにお連れしたいなと思いまして、、
なるほど、そういう事か。
そりゃそうだ。そろそろKenも稼がないと駄目だろう。
もちろん、タクシー代は少し多めに払っている。
しかし、そこは商売。客がいる以上、販売は掛けるべきだ。
構わないよ。私としても少し覗いて見たいから。
それから、できればテーラーにも連れて行ってくれないか。
そう、今回の旅では一つ目的を持っていたのだった。
タイシルク(絹生地)でスーツを1着、オーダーで仕立てたかったのだ。
タイシルクのスーツですか?
そうだ。どこか良い店を知っているかい?
もちろんですとも、喜んで紹介させてもらいます。
Kenの顔を見ていると、かなり喜んでる。
宝石ほど高価な土産ではないが、スーツだってそれなりの値段だ。
紹介手数料だってそれなりに入るだろうから、Kenとしても望むところだったのだろう。
話はついた。
スーツの話で気を良くしたのか、ここのお勘定は自分が払いますと譲らない。
まあ、そこまで言うならとお願いして、店を後にしたのだった。
つづく、、
★★★
【おまけ】
お土産屋を2軒回って少しお土産を買ってあげた。
この後も旅は続くから、ここで大きな買い物はできないとKenに告げて2軒目の店を後にした。
ボス、この後ってどのぐらいバンコクにいるんですか?
いや、明日にはプーケットに移動するんだよ。
そして、また、1週間ほどでバンコクに戻ってくるんだ。
なるほど、そういう予定なんですね。
では、今からスーツを作りに行って預けておきましょう。
それで、プーケットから戻ってから取りに行けば荷物が増えずにすみますから。
ホントに感心するKenのガイドぶりだった。
★★★
【おまけ2】
ノン、どうする。先に帰るか。
俺は、これからボスを土産屋とテーラーにお連れするんだが。
パイドゥワイ! (一緒に行くよ!)
二つ返事だった。
ね、一緒に行ってもいいでしょう。
ああ、もちろん構わないよ。
よし、Let’s go!だ、Ken。
イエッサー、ボス。
トゥクトゥクは再び走り出した。
後部座席では、ノンちゃんが私の右腕に捕まってもう一方の手で髪が風になびくのを抑えながら私の方に体重をゆっくりと預けて来たのだった。
★★★
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