(16) タイ、バンコク、トゥクトゥク物語【プーケットに思い出を】

プーケットで合計4日間のダイビング。十分に堪能させてもらった。

天気も毎日穏やかだったし、のんびりと金髪ビキニを横目に眺め、前日の酒をデッキに横たわって抜き続けた毎日でもあった。

ショップの飲み会には4日間全てに参加して、世界の仲間たちと交流を深めたとても楽しい時間だった。

ユウタとケンジとは、二日目の夜もドンチャン騒ぎをして盛り上がった。

その日は、日中にダイビングで知り合ったシンガポール人のカップルから一緒に連れて行って欲しいとの申し出があった。

我々は、それとなく「止めておいた方が良い」と旦那の方に忠告したのだが、嫁の方が頑として聞かないのだ。

どうしても行くと言う。

分かった。

ならば、我々は遠慮せずに遊ぶから途中で抜けるとか水を差すようなことは決してしないでねと釘を刺して同行許可を出したのだった。

ダイブショップの飲み会が終わり、プーケットの夜が全てを受け入れる準備を整えた頃、では参りましょうかと5人は並んで店へと歩き出したのだった。

行先は昨日のBARと決めてあった。

道中、興奮気味のシンガポール人嫁が、どんな店なの?、店の中では何をするの?とうるさく聞いて来る。

行けば分かるよと、適当に返事をしていると早くも到着。

さ、ここだ。入ろう。

ユウタが先頭になって入り口の目隠しカーテンをくぐって店内に足を踏み入れた瞬間だった。

ユウターッ!

ベンツちゃんか我々を見つけて大声で叫んだ。

すると、その声に数人の女の子が素早く反応して、こっちを見る。

いける。こやつらのテーブルに行けば、酒にありつけるはず。

そう思った瞬間に、彼女たちは次の行動を起こしている。

立ち遅れた者に勝利の美酒などありえない。正に骨肉の争いが、そこかしこで繰り広げられるのだった。

俺達3人は、昨日も来ていたからあっという間に女の子達に取り囲まれた。

しかし、残りの2人に対しては、どうしよかと様子を伺う素振りが見えた。

そりゃそうだ。日本人でも無いアジア人。一人は女だし、カップルなんじゃないのと皆に一瞬の隙が出来た、その時だった。

これはチャンスと1人のオカマ君が、Good evening! ハンサムボーイ!welcome!とたたみかけて、旦那の横にドンと座って腕に抱きついた。

嫁の方は、興味津々で旦那の様子を見ている。

どうして良いか分からない旦那は、身体をこわばらせ目をパチクリさせながら、グ、グッドイーブニングと返事を返している。

それから俺たちは、お約束通り、いや、輪を掛けて乱痴気騒ぎに興じシンガポール人夫婦をおもてなしさせてもらった。

嫁の方は、興味津々で女の子達の行動を観察し、英語のできる子を捕まえては根掘り葉掘りと質問をしていた。

その間、旦那の方はずっと複数のオカマ君たちに弄ばれていた。

そして、入店して40分程も過ごした頃だっただろうか。

とうとう調子に乗り出したグラマラスなオカマ君が旦那のアソコを掴んだり、膝の上に跨って腰を振ったりの攻撃を始めたものだから遂に我慢しきれなくなって、もう勘弁してくれと旦那の方がギブアップしてきた。

それを見た嫁が、何よあなたもう降参なの、ダメな人ねーなんて口ぶりで旦那を叱り、お勘定をお願いしてい良いかしらと助け船を出して来た。

我々も、これ以上は旦那が持たないなと判断して、一旦お勘定をすることにした。

このシンガポール人カップル、実はお金持ちなのかテーブルを囲んだ女の子やサービスのみんなに多量のチップを配って、「ありがとう」と礼を言い、「楽しかったわ」と俺たちのお勘定も払ってくれた。

店の外に出た我々は、白旗を上げた旦那をもう一度イジって笑ってお開きとしたのだった。

★★

その数日後、ユウタとケンジとは今夜でお別れとなり最後の晩餐を共にした。

同時に、バンコクでの再会を約束して、店の名前と日付と時間を決めてそこで落ち合う事にした。

そして、私のプーケット滞在も遂に終わる。

明日の昼便でバンコクへ戻る予定だ。

楽しかった。

一人でも、グループでも、カップルや家族でだって楽しめるところだった。

出発前に、友人たちが言っていたことを思い出して、その通りだと思った。

最終日の前日、挨拶をするためにダイビングショップへ顔を出して、店長兼ダイブマスターのボックスに昼飯を付き合ってもらった。

そして、今回のダイビングがとても楽しいものだったことを伝えた。

食後ショップに戻り、店のロゴ入りTシャツなんかを土産に買って、またいつか来るよと本気で再会を願って握手して別れたのだった。

そして、最後の夜。

今夜は、初日に行ったシーフードレストランへもう一度行き、この1週間の旅を振り返りながらゆっくりと食事をする予定だった。

店に到着すると、この前のウエイター君が出迎えてくれて、Welcome back Sir. どうぞこちらへと店の中へ案内してくれた。

この日も、大まかな希望を伝え、後は彼に任せてビールを注文した。

早めに入店したせいか、客は少なく席は埋まっていなかった。

ならばと、今日は表に出ずにテーブルでタバコに火を点けた。スーハー。

気持ちよくビールを飲んで料理の到着を待っていると奥のカウンターで手を振っている女の子がいるのに気が付いた。

あッ、初日の二人連れじゃないか。

顔は良く見えなくても、あの腰の括(くび)れは忘れようがない。

二人の横には、アジア系の男性客が私と同じようにアロハシャツを着て座っていた。

そのシーンをこちらの席から見た瞬間、全てが理解できて思わず苦笑してしまった。

やはり、そうだったか。

正に、初日の私にソックリだった。

料理を運んできてくれたウエイター君に、こっそりとカウンターを指さして、あそこの二人組は常連かい?と聞いてみた。

すると、ウエイター君は少し言いにくそうにフッと含みのある笑顔を見せて、よくは知りませんが初めてじゃ無いですね。

何かありましたか?と聞き返して来た。

いや、何でもないよ。ありがとう。

初日の夜、誘われるがままについて行っていたらどうなっていたんだろう。

間違いなく、ATMにされていたかもしれない。いや、もっとキツイ仕打ちが待っていたかもしれない。

いずれにせよ、バンコクから友達と一緒に遊びに来たと言うのも作り話なんだろうなと思った。

スーハー。

つづく、、

★★★

【おまけ】

プーケット出発の朝。

朝食を取りに一階へ降りて、通りがかりに「今日もきれいだね~」とベルガールに助平リーマン風の挨拶を投げると、「じゃ私と結婚しますか?」なんてサラッと返してくれる。

既に、彼女とはこんな感じの話が出来る程の仲良しになっていた。

ちょっと立ち止まって、今日バンコクへ戻る事を伝えると、「そうですか。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね。」と、感慨深い返答が返ってきた。

しかし、彼女にとってはこれが日常かと思い直して朝食会場の方へ足を向けたのだった。

その後、混雑する朝のカウンターでチェックアウトを済ませた。

空港行きのバスを待つ間、玄関先でタバコを吸って、目の前に伸びる坂道を眺めて「また来るからな」と一人呟いて楽しかったプーケットの思い出に終止符を打ったのだった。

★★★

【おまけ2】

今回のタイ旅行も、残すところ後二日。

プーケットでは、最高の時間を過ごすことが出来た男の一人旅。

バンコクでは、更なる極上の時を過ごすことが出来るのであろうか。

★★★

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