(5) タイ、バンコク、トゥクトゥク物語【手をつないで来たガイドさん】

昨夜の興奮のせいか、時差のせいか、夜中に一度目が覚めて水を飲んだ。

次に起きた時は、ベッドサイドの時計が08:32になっていたのを覚えている。

ぅうー、痛ーッ、頭が痛い。

流石に、ちょっと二日酔いしたか。

一旦起き上がって、カーテンを開けて明るくなった部屋のソファーに腰を下ろして、フーとため息をついた。

よいしょっと、こういう時は、コーヒーだ。

部屋に備え付けてあるホットケトル(瞬間湯沸かし器)で湯を沸かし、インスタントコーヒーを濃いめにセットした。

銘柄は大好きなネスカフェだった。

ん、扉の方に何かある。

ドアの下に小さな紙が差し込まれており、Welcome(いらっしゃいませ)のレターに新聞をお届けいたしました、と書き記してあった。

ドアを開けると、英字新聞とタイ語のローカル新聞がドアノブに吊るしてあった。

タイで一人旅を楽しんでいる時にビジネスニュースは野暮というものだ。

とりあえず取り込んでベッドの上に放り投げて置いた。

まずは、コーヒーを一口啜って、窓から見えるバンコクの朝の景色を眺めてみた。

昨夜と同じ街なのに、朝のバンコクは全く違う表情で大都会の喧騒を見せていた。

窓を開けてみると、南国特有の生温かな風と交通渋滞の始まった車とバイクの音が喧(やかま)しく二日酔いの頭に痛かった。

窓を閉めて、ぬるくなり始めているコーヒーをもう一口啜ってナイトガウンを脱ぎ捨て全裸になった。

コーヒーは風呂場へ持ち込み、熱目のシャワーをたっぷりと出して湯気の煙るバスルームでもう一口飲んだ。

昨日は、長い一日だったな。

しかし、久しぶりに騒いで楽しい時間を過ごした夜はとても満足なものだった。

鏡に映った体もまだ少し滾(たぎ)っているようだった。

シャワーを浴びたせいで幾分リフレッシュができた。

身支度を整え、1階のレストランへ朝食を取りに下りて行った。

とても広いレストランで、バッフェスタイルの食事もメニューが豊富で和洋中好きなものを選ばせてくれた。

しかし、朝からたくさん食べるのが苦手なのは昔からずっと変わらない。

普段ならパンとコーヒーで済ませるが、せっかくのホテル滞在だからと、よく焼き目玉をダブルで注文してドサッと壁席に腰を下ろした。

一人で朝食をとるときは、あまり窓側の席を選ぶことはない。

どちらかというと壁を背にできる席が好きで、ベンチシートになっていれば最良の席と考えていた。

理由は簡単。ここに座って、他の客を観察するのが好きだったからだ。

世界を股に掛けるビネスマン、楽し気な親子連れ、昨夜の事を思い出すエッチなカップル、それぞれに旅を楽しんでいるに違いない。

こちらはこちらで、二杯目のコーヒーをウエイトレスに注いでもらいながら、昨夜の女の子達の事を思い出したりしていた。

1人でとる朝食にしてはゆっくりと時間をかけて楽しんだ。

さて、今日の予定はどうしようか、、

とりあえず、寺にでも行ってみるか。

一旦部屋へ戻って出掛ける準備をしてロビーに戻って10000円程を両替しておいた。

朝のドアボーイが元気な声で、Good morning sir, Taxi?と声を掛けてくれたが、少し歩くからと断って表の通りへ出てみたのだった。

流石に、kenの姿はまだなかった。

ぐるっと一回りしてみよう。

この大きなホテルは、バンコク高架鉄道(BTS)の駅と直結しているので電車に乗るという選択しもあったが、遠くへ行きたいわけでは無かった。

午前中は、ホテルの近くを散策し、昼からどこか有名な寺へでも観光しようと言う腹づもりだったのだ。

バンコクの街は、大きな通りの歩道や路地の脇、至る所に屋台が出て食べ物を売っていた。

ラーメンの様なものもあったし、鳥の炭焼き、魚の丸焼き、茹でた野菜、朝粥を食わしている店もあった。

これまでタイ料理はあまり食べたことが無かった。 

先程ホテルで朝食を済ませたばかりだったが、何か一つ挑戦したくなってきた。

どれどれ、ふむふむ。

通りを歩いて、路地を覗けばいろんな屋台が出ていてどれにしようか悩むほどだった。

この辺りは、駅の近くという事もあってか人の往来も多かった。

小一時間程、人の間をぬって散策したら流石に足が疲れてしまった。

よし、ここにしようか。

ようやく一軒の屋台に決めて、丸いプラスチックの椅子に座ってみた。

テーブルは、ブリキで作ったような簡単なもので、その上に箸やらフォークやらが置いてあった。

席に着くと、エプロン姿の若い女の子(中学生ぐらい)が、タイ語で話しかけてきた。

もちろん、タイ語の意味は分からないが、きっと、何食べますか? と聞いているんだろう。

えーと、あの写真のスープの様なものをくださいと頼んでみた。

すると、その女の子は、屋台の前に貼られた二枚の写真を指さして、どちらにしますか?みたいなジェスチャーをしている。

見た目は、どちらも一緒だった。

値段は、20バーツと30バーツの二種類があったので、良く分からままに、右側の30バーツと書いてあるやつを頼んでみた。

ハラホロヒレハレ、xxx xxx

タイ語で注文を復唱している様だった。

続いて、その女の子はプラスチックのカップに長いストローを半分に切ったものを差し込み、はいどうぞとテーブルの上に置いてくれた。

水は無料のようで、各テーブルの上にこれまたプラスチックの水差しが置かれていた。

少し、ドキドキする。

ここはタイ。

まして、超が付くほどのローカル屋台。

この水をグビグビと飲んで大丈夫なんだろうか。

今日は、まだ二日目、、、

勇気が出なかった。

頭の中で昔の記憶が蘇る。

その記憶とは、インドネシア、ロンボック島へ行った時の壮絶なゲロッピー事件の事だった。

あんな思いは二度と御免だ。

キョロキョロと周りを見ると、他の客の中にコーラらしきものを飲んでいる人がいた。

あれだ!

もしもし、娘さんよ。

私にも、あの西洋の飲み物をくださらないか。

コーラー?

そう、そのコーラーをください。

タイの人々は、コーラの語尾を伸ばして発音するのだ。

出て来た料理は、米粉で作った丸まったワンタンの皮のような麺がスープの中に浮かんでいる食い物だった。

色は間違いなく豚か牛の血を混ぜたスープの色で焦げ茶色。

ただ、上手く調理してあり臭みはほとんど感じなかった。

味はスープの色ほど濃くはなく、少し甘さを感じる香辛料とバジル入りのスープだった。

パクチーを除けば合格点で美味かった。

飯を食い終わって時計を見ると、11時を大きく回っていた。

よし、一旦ホテルへ戻ろう。

15分程も歩けばホテルヘは戻る事が出来た。

ホテルの玄関先までやって来た時、Kenのトゥクトゥクが目に入った。

本人は、車を離れて近くの友達と談笑していたが、その友達が私に気付いて客が来てるぞとKenに教えているところだった。

タバコを足で揉み消して、小走りに走り寄って来たKenは、おはようございますと丁寧な挨拶をして聞いて来た。

ボス、よく眠られましたか?

その質問と日本語力に、本当に感心した。

横浜にいたと言っていたが、どんな仕事をしていたのだろう。

そんな事を思わせる程、Kenの日本語は上手かった。

ああ、よく眠れたよ。

今は、その辺りを散歩して屋台でスープみたいなものを食べてきたところだ。

そうですか。で、今日はどうしましょうか。

そうだな。ちょっと寺へ行ってみたいと考えているんだが。

分かりした。

では、まずワットポーへ行ってみましょう。

OKだ。その辺はKenに任すから、よろしく頼むよ。

お寺に行くときは、できれば長いズボンを穿(は)いてきて下さいとアドバイスをくれたのでそのように従った。

30分後ぐらいにとの約束だったので、部屋に戻って少し時間を潰して再びロビーへ行くと、あれッ?

ロビーに昨日のバービアの女の子がKenと一緒に待っていたのだった。

サワディカー。

話を聞くとKenとこの女の子は、はとこ同士の親戚だと言うではないか。

本当かなとも一瞬思ったが、まあ構わないだろう。

この娘、名前はノンちゃんと言い、笑顔の可愛い女の子だった。

ken曰く、男二人では寂しいので今日のガイド役として呼びましたとの事だった。

もちろんOKだった。

こんなキュートなガイドさんならこちらからお願いしたいところだ。

よろしくね、ノンちゃん。デへデヘ~。

今日も、何やら楽しくなりそな予感がして来たぞ。

よし、出発だ!ブ~ン

つづく

★★★

【おまけ】

昼のバンコク、信号待ちの渋滞は結構あるが、裏道を知り尽くしたKenの運転は頼もしかった。

行く先々で、右に左と路地を進んで快調に目的地へ向かっている様子だった。

後部座席では、キュートなガイドさんのノンちゃんとピッタリ並んで座り、デニムのショートからピチパッチンと生えた二本の足に見とれているのも楽しかった。

このガイドさん、街の様子などは一切説明してくれないが、今の流行や人気のお店、それに簡単なタイ語を一生懸命教えてくれるのはありがたかった。

★★★

【おまけ2】

ボス、もうスグ到着します。

ちょっと、寄り道しますのでちょっと待ってくださいね。

そう言うと、お寺の近くにトゥクトゥクを一旦止めて、歩道の叔母さんと話し出すKen。

何やら、ズボンの様なものを手に取って金を払っている。

このズボン、参拝客様にレンタルしているものだった。(ちなみに値段は1回20バーツ)

なるほど、そういう事か。

ガイドのノンちゃんは、ショートパンツ姿で素足が出ているからこのままだと寺に入れないとの事だった。

長ズボンを手渡されたノンちゃんは、ササッとショートパンツの上からそのズボンを穿いて先にトゥクトゥクを降りて行った。

そして、私が降りるのを待って、さ、行きましょうと優しく手を繋いできたのだった。

★★★


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