(17) タイ、バンコク、トゥクトゥク物語【旅を彩る思い出の華】

プーケットの空港は日々大車輪の活躍で大量の人を捌いていく。

私は、こういった忙しい空港が大好きだ。

空港にいる人の顔を見ると、とても表情が豊かで面白い。

到着したばかりの人は笑顔だし、旅が終わる人は疲れ切った表情をしている。

中には別れの涙を見せる人もいてそれぞれの物語を感じられるのだ。

そんな光景を横目に見ながらチェックインを済ませて搭乗ゲートへと足を進めた。

どうしようか。

今私が考えるのは、残り二日間のバンコクでの行動だ。

プーケットでの思い出は、空港へ向かうバスの中で既に手帖に書いて片付けた。

バンコクに到着したら、まずはオーダーメードで作ったタイシルクのスーツを取りに行かなければならない。

夜は、プーケットで知りあったユウタとケンジとの待ち合わせだってある。

こりゃ、さっさと用事を済ませておかないと夜の活動に支障が出るな。

ふふッ、相も変わらず私は忙しい旅が好きなようだ。

アテンション・プリーズ、アテンション・プリーズ、、

お、搭乗が始まったようだ。

★★★

帰路のフライトは通路側の席をと願い出た。これ以上プーケットの海に別れは無用だ。

そして、席に着くや直ぐに仮眠を取ると、1時間半のフライトはあっと言う間だった。

ドムアン国際空港に降り立ち、初日に到着した時と同じようにタクシースタンドで順番を待ち、アジアホテルへ行ってくれと運転手に伝えた。

運転手のオヤジは小さく頷いてカップ(タイ語でOKの意)と答えて無言で高速を飛ばしてタクシーを走らせた。

ホテルに到着すると、ポーター君がWelcome!と飛び出して来て荷物を運んでくれる。

チップを渡して彼に荷物を任せて、私は一人ホテル内に足を運び「Check in, Thank you.」と旅慣れた風を装ってカウンターに片肘を乗せて笑顔を作ってみせたのだった。

すると、Welcome back(=おかえりなさい)と声を掛けてくるじゃないか。

あらら、不覚にも顔を忘れてしまっていたのか、彼女は一週間前にチェックアウトした時の担当だったのだ。

彼女は、私の滞在が2泊である事を念のために確認して、Enjoy your stay!とキーを渡してくれた。

★★

チェックインを待っている間、それとなく玄関の外を確認したが、トゥクトゥクのKenはいないようだった。

もちろん、なんの約束もしていないから仕方がないのだが、ちょっとがっかりした。

と言うより、困ったぞ。スーツを取りに行きたいが、店の場所を別の運転手にちゃんと伝える事が出来るだろうか。

明るい内にスーツの受け取りだけはどうしても終わらせておきたかった。

一旦部屋に入ってスーツケースを置くだけにして、テーラーで貰った受取証を持って早々に表に飛び出した。

やはりKenはいなかった。

仕方ない。あきらめよう。

待機していた別のトゥクトゥク運転手に店のビジネスカードを見せると、OK、直ぐに行くのかと聞いて来たから、ああ頼むと出発した。

とりあえず、インド人テーラーからスーツを受け取り、また来てね~とカマっぽい口調で礼を言われて店を出た。

やっぱり、アイツは本物だったか。

まあ、良い。とりあえずスーツは受け取る事が出来た。

さてと、一旦ホテルへ戻って休憩がてらロビーでビールを一杯頼んでタバコを吸った。スーハー。

さっきの運転手にそれとなくKenの事を聞いてみたが、ここ数日顔を見ていないとの事だった。

ふ~ん、いないのか。困ったな。

★★★

今夜は、20時頃に約束した店へ行かなければならない。

店は、歓楽街の真ん中辺りにあって凄く有名だから直ぐに見つけられますよとの事だった。

それでも、少し心配で下見がてらにその辺りを流してみる事にした。

繁華街と歓楽街が入り混じったその辺りは観光客でごった返していた。

細い路地には所狭しと土産物屋が並び、店先では外国人の観光客が店主と電卓を挟んであれこれ値段交渉している姿も垣間見られた。

私も、同じように土産物屋を冷やかしながらぶらぶら流していると傍にBARの看板が目に飛び込んで来た。

ここかあ。

目立つようにネオンの看板が大きく光り、似たような店が何軒も並んでいた。

それぞれの店の前では女の子達が呼び込みの声を上げている。

Welcome、ウエルカ~ム! Dancing show、アナタ、ダンシングショー! 

一軒一軒はそれほど大きな店ではなかった。

しかし、店の中からは派手な音楽が聞こえ、ミラーボールやブラックライトが妖しく光って客を誘っている様だった。

腕時計を見ると19時過ぎ、集合時間には少し早かった。

時間的にも少し腹が減ってきた。近くの屋台に立ち寄ってタイ風のラーメンを啜って腹ごしらえをする事にした。

ラーメンを食い終わってビールを一本飲みながら時間を潰し、頃合いを見計らってお勘定をして待ち合わせの店に向かったのだった。

★★

入店すると、次から次へと女の子達が声を掛けて来るが待ち合わせだからと断りを入れて一人で飲んでいた。

結局、1時間程待っていたが二人は現れなかった。

残念だったが、まあ旅の途中の軽い約束だったからなと諦めることにした。

気分を変える為に、お勘定を告げて店を出た。

こうなると、次のお店は、あのノンちゃんのいるバービアという事になる。

しかし、その店には足の向かない理由が一つあったのだ。

★★

プーケットのバービアで仲良くなったノックはこんな話を私にしてくれた。

それで、そのトゥクトゥクの運転手、Kenだっけ。

そいつは、その女の子のことを親戚だって言ってたの?

ああ、そうだよ。

なるほどね。本当の事は私にも分からないけど、それ親戚じゃないかもね。

きっと、彼氏だよ。そいつ。

えッ、そうなの。

だから、分からないんだけど。

男が自分の女のを紹介する時の常套句だしね。

親戚、従妹、妹、、、なんてさ。

なるほど、それはそうかもしれないと思った。

しかし、考えるのはよそう。

いずれにしても、真実は分からない。

わざわざ楽しかった思い出を傷つける必要は無いと思った。

しかし、この話がずっと気になって連絡をしなかったのは事実だった。

夜は、もう一日ある。

縁があれば、ノンちゃんにはまた会えるだろう。

今日は今日、今夜は今夜、そう思ってバンコクのネオン街を再びぶらりと流し始めたのだった。

スーハー。

【完】

★★★

【あとがき】

人生は筋書きのないドラマだと言ったのは誰だったか。

旅もまた、そうだと思った。

最後は、約束した2人と再会できず、ノンちゃんにも会えなかった。

それでも、今回のタイ旅行ではいろいろな出会いがあった。

元々、忙しく働く私を見兼ねて仲間が背中を押してくれたリフレッシュ旅行だった。

彼らには、本当に感謝している。

帰国したら、彼らに思い出話をたくさんしよう。

リラックスとは程遠い、目一杯遊んだ過密スケジュールだった。

しかし、おかげでたくさんの初体験をする事も出来た。

私にとっては、それが何よりの旅の楽しみであり最高の時間だった事は言うまでもなかった。

★★★

【おまけ】

ねーねー、一杯飲んでかない?

私、かわいいでしょ~。ねーねー。

こらこら、腕を引っ張るんじゃない。でも、日本語が出来るのか。

じゃ、一杯だけ飲んでくか~。

君、名前なんて言うの?かわいいじゃない。デへ~

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