(11) タイ、バンコク、トゥクトゥク物語【ビーチレストランで逆ナンパ】

タイにやって来て三日目の夜になる。

プーケットのビーチ沿いをぶらり一人で歩いてみた。

バンコクでの散策は朝の時間帯だったから全く印象が違う。

夜の移動はもっぱらトゥクトゥクだったし、行先も大半は運転手に任せて案内させたものばかりだった。

だから、実質今夜が初めての探検となるのだった。

★★

宵闇が深くなり始める時、通りの店々には明かりが灯り出す。

歩く速度は夜モード、戦闘開始と心が逸る。

行き交う人の流れも幾分ゆっくりと感じられるが、それはそれで丁度良い。

今夜はどの店にしようか。

1人旅とは、本当に気儘なものだ。

これと思った瞬間に、ハイッと手を上げて、1(いち)の多数決で物事を決める。

正に、私向きの決断方法であった。

しかし、唯一と言って良い弱点がある。

それは、食事。

やはり、1人で摂る食事は誠に味気がなく寂しい。

ラーメンや定食なら戦いようもあるが、高級シーフドなんかの大皿メニューの注文には聊(いささ)か難儀する。

やはり、レストランと名の付くところは複数の方が様(さま)になる。

仮に大きなテーブル席に着いて端っこ同士がほぼ話せない距離にいても、大勢で摂る食事と言うのは何とも楽しいものだ。

しかし、今日の私は孤高のグルメよろしく、一人タイ料理に舌鼓を打とうと店を探しているところなのだ。

ちょっと待てよ。

今、私は一人旅の途中だ。

まして、ここは南国タイ。

思い切ってナンパでもしてみるか。

へーい、そこの彼女~ッ、お茶しない。

ダメだ。

とても、しらふじゃ出来っこない。

そうか、飯の前にバービアに寄ってみようか。

一杯ひっかけて、それから難破して、おっと字が違うぞ。

ナンパして、、

それにしても、外人多いなあ。

顔つきからすると、いろんな国から来ているみたいだし話す英語も訛りだらけじゃないか。

思い切って、金髪をナンパしてやろうか、なんて妄想もまた楽しかった。

おっと、ここはちょっと良さげな店じゃないか。

オープンレストランで店の中には篝火(かがりび)が燃えている。

玄関先にはシーフドが氷の上に豪華にディスプレイしてあった。

はは~ん、ここから食べたいものを選んで調理してもらうんだな。

よし、今夜は、ここに決定しよう!

バービアとナンパは、後回しだ。

★★

Good evening! ミスター、お一人様ですか?

そうだ。

どこか通りの見える側の席に案内してくれないか。

かしこまりました。どうぞこちらへ。

なかなか、きびきびと動くウエイターだ。

こちらの席などはいかがでしょうか。

今、テーブルをセットしますので、少々お待ち下さいと4人掛けのテーブルを私専用に作り変えてくれた。

テーブルには、雰囲気を盛り上げるためのローソクの火がポッと灯り、傍には黄色と紫のかわいい花が差してあった。

席に座って前を見ると表通りを歩く人の流れが良く見える希望通りの席だった。

まずは、ビールを頼んで給仕を待った。

先程のウエイターがウエイトレスの女の子を従えてワゴンカートと一緒にやって来た。

カートには、店の名前の入った清潔感のある白いクロスの掛けてあり、ビールとグラスと氷の入ったピッチャーが乗っていた。

日本のレストランでは誰しもが「いらっしゃいませ」と言うように、タイでは係のウエイトレスが「サワッディカー」と言ってワイ(合掌)をしてくれる。

これが堪らない。

異国情緒を盛り上げてくれるこのフレーズと仕草。英語の「Hello」なんかにはない、独特の甘美さを感じさせてくれる。

今夜の私はラッキーなんだろうか。私を担当してくれるウエイトレスもなかなかにかわいい。

ビールの酌を終えると彼女は一旦横へ引き下がる。

そして、私がビールを一口、グビグビーと飲んで、プハーッ、旨い!と声を出すのを待って、ウエイターがメニューですと、ゴージャスな布張りのメニューを手渡してよこした。

ほー。高そうじゃないか、どれどれ。

ロブスターやオイスター、高級魚には値段が無く、目方によるとの記載があった。

しかし、その他の料理は、1000円~3000円ぐらいまでだったからそれほど高いわけでもなかった。

暫くメニューを見ていると、ウエイターが声を掛けてくれた。

何か、お気に召した料理がございましたか?

とても、丁寧に訪ねてくれたことに驚いた。

ああ、ありがとう。

どれもこれも美味しそうなんだが、みなお皿が大きそうだから、どうしよかと思ってね。

この、スズキ(鱸)の丸揚げが食べたいんだがね。

かしこまりました。では、ハーフサイズか、小さめのものが提供できるかシェフに尋ねてまいります。

少々お待ちください。

そう言って、ウエイター君は下がっていった。

今度は、ウエイトレスさんが、そつなくビールを注ぎ足してくれる。

ニッコリと笑顔で注いでもらうビールは格別でプーケット風味と言ったところだろうか。

結局、ウエイター君が上手く取り計らってくれて、ハーフサイズの魚料理をメインにサイドのタイ料理を上手く添えてくれて満足のいく晩餐に仕上げてくれた。

大皿から小皿に取り分けてもらった魚料理はとても新鮮でタイ風の辛味ソースが抜群だった。

美味しい食事と生ビール。あぁ~楽しい、とうっとり気分でビーチ沿いのレストランを楽しんだ。

食事の大半を腹に詰め込むと、少しタバコが吸いたくなってきた。

席でも吸えるとの事だったが、流石に憚られたので通りに設けてある喫煙スペースに向かった。

火を点けて、レンガの壁にもたれて一服吸った。スーハー。

店の篝火に照らされたパームツリー(ヤシの木)の影が壁に写って南国情緒を盛り上げてくれた。

旨かった。普通のタバコなのに極上の味がした。

ねーねー、独りなの? こんばんは。

一本いいかしら。

、、、

突然の美女の声掛けに狼狽した。

ん、タバコかい。

そう、一本構わないかしらと少し首をかしげて目で返事をされた。

ああ、どうぞ。これで良ければ。

タバコは体に悪いが、こんな風に良いこともある。

あッ、これ、日本のタバコね。日本人ですか?

そうだよ。ホリデーで少しね、、

タバコを吸っている間、ちょっと話をして、女の子は二人連れであることが分かった。

どうしよう。これは絶好のチャンスだ。

ここは、このままナンパしてしまうのが最良だろう。

既にビールも入って気分は高まっている。

後は、女の子の話し相手がいてくれれば申し分がない。

なになに、二人は暇なの? 

丁度、食事は終わったところなんだけど、どう、あっちのBARで一杯。

あれ~、いきなり誘われてるのかな私達、どうする~と、二人で笑いながら相談する素振りを見せいるが、態度は行く気満々の様子だった。

OKよ。じゃ、一杯ご馳走になろうかしら。

じゃ、ちょっと先に行っててくれる。ここの勘定をPayしたらすぐに行くよ。

パチンッ、と指を鳴らして先程のウエイター君を呼んでお勘定をしてもらった。

彼のサービスがとても気持ちが良かった旨を伝え、チップを多めに渡してカウンターBARの方を指さした。

これから、ちょっとあの娘たちと飲むんだけど、何かカクテルでも先に出しておいてくれないかと頼んだ。

こちらは、食事の時に仕込んだビールが下がって来たようだ。

一旦、トレイに行って、ジョワ、ジョワ、ジョワー、よく出るぜ。

よーし元気出して行こうぜと、一声かけて、また後で。

さーて、今夜も暑い夜になりそうだ。

つづく、、

★★★

【おまけ】

カウンター座った二人の後ろ姿は、夢の様なワンショットだった。

特に、ヒップラインが最高だった。

この時ばかりは、己が勇気ある行動を褒めてやりたかった。

★★★

【おまけ2】

お待たせと、席に座り、バーテンダーにレモンスライスを入れたラムコークを注文した。

まずは、この出会いとプーケットにと乾杯して、簡単な自己紹介をして話を進めた。

聞き取った情報によると、プーケットへは7人ほどの仲間と一緒にやって来たとの事だった。

今夜はそれぞれに自由行動という事で二人で食事をしてぶらぶらと散歩していたらしい。

みんな普段はバンコクで仕事をしているらしく、ここプーケットには友達を訪ねて遊びに来たとの話であった。

30分程も話していただろうか。

私達は、この後みんなに合流するんだけど一緒に行きませんか?と誘われた。

クー、悩んだ。

全く知らない人達と飲むのは問題ない。

しかし、この娘達は間違いなく素人じゃない。

お二人とも、十分すぎる程に美人だし立ち振る舞いにも全く問題はない。

しかし、今回はどうしてもATMにされるんじゃないかと言う気持ちが拭い去れず、お断りすることにした。

誘ってくれて、ありがとう。

でも、明日はダイビングがあって朝も早いからバービアにでも行って飲む事にするよと、半分本当、半分嘘の言い訳で彼女たちとはここでお別れすることにしたのだった。

ま、今日のところは、これで正解だろう。

よし、次行こう。

右か、左か、、どっちにしようか。

★★★


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