【4.初めてじゃ無いからね】駅裏 雀荘物語
出勤2日目、
雀荘ビルの3階へ上がって、ロッカールームでユニフォームに着替えていると、
同じく10時出勤のお姉さん達数人が、女子更衣室側で着替えをしている様子だった。
こちら側に、年頃の高校生がいると、知っているのか、いないのか、
そんなことはお構いなしに、
ねえ、ケイちゃん、ここ、ちょっと太ったんじゃない、
ぷよぷよ、してるよー。
ヤダー、分かる~、ホント、ヤバいよねー。
シャー、ッ、スャー、ッ。
シャツの袖に、腕を通す、衣擦(ず)れの音も聞こえる。
お姉さん方は、あちら側でほぼ丸裸なの?、、薄着で着替え中なの?、、
毒だ。
俺には、このロッカー、ヤバすぎる。
でも、大好きだぜ、このバイトは。
朝から、むっくりさせている場合じゃないと、早々にロッカーを静かに閉めて、部屋から出て行った。
腕時計を見ると、まだちょっと早い。
昨日、ここでミッチャンにタバコを貰ったんだと思い出し、
またしても、股間がキュンとなったところで、キャスターに火をつけて一服、スー、心を静めた。
お姉さん方も、それぞれに部屋を出て来て、
俺のことなど全く気にもしてない様子で、おはようと声を掛けて下へ急いでいった。
カラン、コローン、
2階の扉を開けると、節子さんが既に出勤していた。
朝の仕事は、まず掃除から。
これは、大体どこの世界も似たようなものだ。
昨夜、この場所で、サラリーマン達が熾烈(しれつ)を極める戦いを繰り広げていたのだ。
月末も近い。
みんな、そろそろ財布の残りを何とか増やそうと必死なのだろう。
しかし、麻雀はシビアで、恐ろしい博打(ばくち)だ。
会社の仲間を、勝者と敗者に分断してしまう。
弱者は振るい落とされ、月末までひっそりと暮らし、勝者は一時だけ、その栄華に酔い痴れる。
面白い、、
カチャッ、カチャッ、ズー、カチャッ、カチャッ、ズー、
昔は、もっと早かったんだけどねえと言いながら、
牌をクルクルと回して、縦にしたり、横にしたり。
汚れた牌の拭き方は、80才越えの節子さんが教えてくれた。
タバコの脂(ヤニ)と、オヤジの汗の汚れがへばり付いた牌。
みんな本気の気合入ってたなと、昨夜の事をまた思い出した。
あ、そうだ。
後で、喫茶のみんなにお礼を言っておかないと、、
昨夜、仕事が終わってから、俺の為にみんなで歓迎会をしてくれたのだ。
店に入るなり、ビール3本ッ、大瓶よろしく。
何の躊躇もなく、キヨシさんが注文して、みんなで乾杯したけど、、
やっぱり、ちょっと大人の世界だな、ここは。
掃除が、一段落したころ、開けっ放しで空気の入れ替えをしていた扉がノックされた。
コンコン、
本日、最初のお客さんだ。
はい、どうぞ、やってますよ。
受付表に名前を書いてもらって、伝票を作ったら、
さっそく、モーニングを4つ注文してきた。
こちらのお客さんも、地方かららしく、3時間ほど新幹線待ちの時間があるという事だった。
この店に来るのは、初めてではないが、常連というほどでもないらしい。
内線で、モーニングセット(サラダとゆで卵付き)を4つ注文し終えると、
節子さんに、ノッポ君と呼ばれた。
えッ、さっきまで名前で呼んでいたのに、なんで?
って顔をしていると、
下の子達に聞いたんだよ、あだ名。
あんた、ノッポ君になったんだろ。
なったわけではありませんが、、
なにごちゃごちゃ言ってんの。
3階へ行って、倉庫から点数表とクリーナーの詰め替えを取ってきておくれよ。
了解しました。そういうのは、このノッポにお任せを。
頼んだよ。
軽快に階段を、2段、3段飛ばしで駆け上がり、
あ、そうだ、ついでにタバコ吸っていこ。
別に、雀荘の中でタバコを吸うのを禁止されたわけじゃないけど、
一応まだ高校生だし、
受付で、ぷかぷか吸うのも気が引けて、、
結構、真面目だねえ俺も、と思ったとき、、
ん、
嫌ーだッ、
持って無いもんッ、
ホントに無いんだから、
ミチコの方が貸してもらいたいくらいだよッ。
無いーッ、
バン、、ダッダッダッ、
あ、ミッチャン、
お・はよう。
ちょっとダケ目線を送って、あいさつした。
ノッポ君、、、おはよー。
ミッチャン、昨日は、ありがとう、そのー、夜の歓迎会。
ああ、あれ、
良いって、良いって、あんなの、
それより、タバコちょーだい。
あ、あぁ、いいよ。
胸のポケットに入れていたキャスターの箱を取り出すと、
大丈夫、それでいいよと、俺の咥えていたタバコを奪って、
スー、、スー、
慣れた手つきで2度程吸って、
次、返すねっ、
って言ってから、もう一度吸って置き型の灰皿の上で揉み消した。
こっちが、手を振って、いいよーという間もなく、階段を下りて行ってしまった。
その足音を聞いていたかのように、
今度は、キヨシさんが奥の物置部屋から歩いて来た。
あ、おはようございます。
それと、昨日、ありがとうございました。
今、ミッチャンにもお礼を言っていたところで、、
いいよ、あんなの、気にしなくて。
それより、ノッポ、俺にも一本くれよ。
あ、はい。どうぞ。
カチカチッ、
パッ、パッ、スー、ハー、
何だ、こんな軽いの吸ってんのか、
すみません。
まあ、いいや、ところで、、
今の話、聞こえてたか?
ミチコ、怒ってただろう?
え、怒ってはなかったけど、なんか愛想が無かった感じでしたけど、、
そうか。
なんか、あったんですか。
いや、何でもないさ、
ただの内輪揉めみたいなもんだから、と言って、
首を上下に小さく、うんうんと動かして、自分に納得させているような仕草だった。
声は、しっかりと聞こえていた。
けど、そこには触れない方が良いかなと、なんとなく思った。
おっと、あまりゆっくりもしていられない。
節子さんに怒られる。
俺、備品取りに来たんで、先に行きすねー。
おう。
こうして、お互いに仕事に戻り、昼の休憩時間までは何事もなかった。
節子さんが先で、俺が後、交代で昼の休憩を取った。
朝の出来事が気になっていたが、俺には関係のない話だ。
でも、16才のミッチャンと、キヨシさん、、40才ぐらいだろ、
付き合ってんのかなあ、、
昨日だって、原チャリの後ろで、キヨシさん抱きついてたもんなあ、
普通の関係じゃないよな。
そんなことを一人考えながら、下へ降りて行った。
雀荘の方でバイトする者は、喫茶のメニューが4掛けで注文できた。
カレーライスとかピラフが500円だったから、4割の200円で食えたのだ。
喫茶の方でバイトすると、賄い飯として、弁当以外、何でも注文して食べる事が出来た。
ちょっと不公平な感じだが、喫茶の方は女性従業員が多かったから、よく働いてもらうための会社側の作戦だったのだろう。
俺も今日は、10時始まり最終までのロングだったから、
朝、夜、ここで食うことになっていた。
喫茶に入って、一番奥の従業員用の席に座ると、ミッチャンが向かい側に座って来た。
ノッポ君、一緒に、食べよー。
あ、別に、良いけど。
飯を食ている間、聞いている音楽とか、どこに遊びに行くのとか、普通の話をした。
飯が終わって、スグに、
ねえ、ちょっと、外に出よーよ、外に、ね。
もう、言われるままだった。
ここは、駅裏のビルだったから、外に出れば駅のベンチがあって、
そこに座ると、前の自販機でミッチャンが缶コーヒーをおごってくれた。
ありがとね、付き合ってくれて。
あ、いや、別に、良いよ。
朝のさ、、話、聞こえてたん、じゃない、、
うん、まあ、
そうなんだよねー。
あのオッサン、カネ貸せって言うのよねー。
ミチコ、一人暮らししてるんだよ。
無いよー、そんなもんッ、あるわけないじゃん、ねえ。
バイトの時給、分てるくせにねー。
あー、ゴメン。
ウザイ話だよね。
あのさー、ミッチャンって、キヨシさんと付き合ってんの。
、うん、まあ、ねー。
ココのバイト長いのー、
うーん、まあまあ続いてるかな。1年ぐらい。
昨年、高一って嘘言って、始めたからさー。
バレなかったんだー。
うん、キヨシさんがいろいろ助けてくれたから、、
そうなんだー、それで、
そ、
成り行きってやつかなー、
でも、初めてじゃ無かったんだよー、私、
え、何が、、
正直、俺には刺激が強すぎて、言葉が全然出てこなかった。
そうなんだー、ばっかり言っていたような気がする。
だから、おじさんが、初めての人じゃないって話。
どうしよっかなー、これから、、
あの人、見た目はツッパてるけど、普通の人だよ。
パチンコばっかりやってる。
だから、普段は一緒にいないんだよ。
こっちは、16才だっちゅーの。
たまに、泊まりに来るだけだから。
この辺りから、話を聞いているのが恥ずかしくなって、
すぐ隣に、ミッチャンが座っていて、今日もミニスカートから太ももが見えている。
この子が、大人のキヨシさんと、付き合って、あんな事とか、、
想像してしまって、苦しかった。
そんなに好きじゃないって感じなのに、、
でも、俺に何かできるわけもないし、、
ノッポ君~ん、何考えてんの、
あー、エッチな事、考えてたんじゃないのー。
あーッ、赤くなった。
正直、顔面に火が付いたほどに、かーッと熱くなった。
もう時間だよ、戻ろう。
タバコ、もう一本吸っていこうよー。
いいよ、おれ、先行くから。
恥ずかしかった。
ミッチャンの事が見られずに、
その場から逃げ出して行った、ノッポ、2日目の昼休みだった。
つづく、、
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