【16. 決断、そして、キッス。】駅裏 雀荘物語

試験を受けた方が良いか、受けない方が良いか、、

そんな大切な事を他人から問われたのは、生まれて初めてだった。

自分の事すら何も決めたことが無い俺に、どうしろというのか。

でも、ミッチャンは、今、俺の答えを待っている。

ミッチャン、

うん、なーに?

試験、受けた方がいいと思う。

絶対に、受けた方がいいに決まってるよ。

だって、才能って、持っているやつしか使えないと思うから。

持ってないやつには使えないんだから。

ミッチャン、絵、好きなんだろ。

そっか、やっぱり、そうだよねー。

今しかできないよねー、こんな事。

そうだよ、俺たち、まだ16才だよ。やりたいこと全部やっていいと思う。

そうだよね。

別に、みんなにずーッと会えなくなる分けじゃないしね。

、、、

俺は感じていた。

きっと、この試験に受かって、転校してしまったら、もう会えないかもしれないと。

ミッチャン、みんなも同じだと思う。

まだまだこれから、どんどん勝手に時間が進んで行くんだよ。

クラスのみんなも、進学の事とかよく話しているし、

俺だって、ここのバイトいつ辞めるか分からないし。

ずっと続く事なんてないよ。寂しいけど。

俺は、この時間の進み方に対してダケは、自分なりの考えを持っていた。

分かったよ、ノッポ。

ありがとう。

今から、行って来るよ。

試験の申込書にサインまだだったから。

そっか、決めたんだ。気持ち。

うん、とミッチャンが頷いたのを見て、また少し離れて行ってしまう感じがした。

今は、お互いの肩が触れそうに並んで座っているのに、、

ミッチャンは、新しいタバコに火を点けて、立ち上がって伸びをした。

フェンスの向こうの景色を見ながら、よーし、と大きく声を出して、前に踏み出す自分を見ているようだった。

俺は、その後ろ姿に、正直格好いいなと思ってしまった。

じゃ、戻ろうッか。

屋上を後にして、ミッチャンはその足で4階へ行き、俺は2階へ戻った。

カラン・コローン、この扉の音も今日は寂しげに聞こえる。

佐山君が、大丈夫かと気遣いの視線を送ってくれて、受話器を渡してくれた。

リョウ子さん、心配してたから、電話してあげて。

分かりました。

ビービー、ビービー、はい。

あ、リョウ子さん、ノッポです。

ありがとうございました。今、ミッチャンと話し終わりました。

そう、で、どうなったの。

ちょっと、上でタバコ吸いませんか。

オッケー、先行ってて、私もすぐに行くから。

再度、佐山君に、すみませんと断って3階へ上がって行った。

リョウ子さんには、ミッチャンが絵の専門学校を受験することを伝えた。

やっぱり、ノッポがいてくれて助かったよ。

ホント、ありがとね。

いえ、俺は別に、何もしてませんよ。

そんな事無いって。ミチコ私にだって、決め事の相談なんて絶対しないからね。

まあ、年も離れてるからねー。

私、いつも思うんだよ。ノッポとミチコと一緒に話していると、自分が大人なんだなーって。

リョウ子さんは、ステキな大人じゃないですか。

そうじゃないのよ、、

ついつい、学生時代の楽しかった事とか思い出してしまうのよ。

もう、戻れんないのにねー。

で、試験いつなの?

来週の水曜日って言ってました。

そっか、スグだね。試験って難しいのかなあ。

いえ、面接と学科が少しで、絵の作品はもう提出してあるって言ってました。

へー、そっか、やっぱりミチコ何も言わないね、私には。

それで、学校ってどこなの?

仙台って言ってました。

仙台って、あの仙台。

はい、リョウ子さん分かりますか仙台。

もちろん分かるわよー、あれでしょ、北の方の、、

そうです。ずっと遠いところです。

そっか、そしたらミチコ、試験受かったら転校ってことになっちゃうんだね。

ノッポは、それで良いの?

正直、辛いですよ。

せっかく知り合って、もっと一緒にいたいし、、でも、仕方ないです。

ミッチャンにも、試験受けて頑張った方が良いって、そう言いましたから。

そ。

みんな、決めたんだねー。前に進むか、と言ってタバコを持った手を前に突き出して見せた。

その日、雀荘の方は結構忙しくて、いつものように、ポン・チーと、サラリーマン達の熱い戦いが繰り広げられていた。

今の俺にとっては、その忙しさが何よりだった。

何も考えずに仕事をしていると時間の方が先へと進んでくれる。

途中、キヨシさんに、新しい情報頼むぜと言われ、はいはいと適当にあしらって、

客の弁当やコーヒーセットを運ぶのに階段を往復した。

島崎課長が一度2階へ下りて来て、しきりに礼を言ってくれた。

おまえのお影だ、野上、ありがとうって。

そして、休みの事を聞かれた。

お前、まだバイト始めて一度も休んで無いんじゃないか。

大丈夫ですよ、休みなんか無くても。

そうはいかん。ここは会社だ。労基署もうるさいからな。

もう週末だな。それは困るから、月曜日だ。

月曜、休め。良いな、それで。

やはり、一方的な人で、こっちの都合など聞いてくれる人ではなかった。

急遽、月曜に休みが決まって、ついでに島崎課長が教えてくれた。

ミチコな、今回は本気だよ。

なんか、試験の準備するとか言って、月曜まで休ましてほしいって、さっき頼まれたよ。

始めてなんだよ、あいつが俺に頼み事してきたのは。

悔しいが、やっぱり野上のおかげって事になるな。

雀荘の扉を開けて、外に出て行きながら、いいな、月曜日、休めよと念を押して去って行った。

それから3日間、ミッチャンのいないバイト先へ重い足を運び続け、俺は俺で前に進もうと仕事に没頭していた。

そして、火曜日の朝、ぎりぎりセーフで学校に到着して、

何度も、何度も、時計を見て、早く授業が終わらないかと気持ちを焦らせていた。

明日は、ミッチャンが仙台に行く日だ。

今日は、会って、頑張れと声を掛けたかった。

それ以上の事は、何も言えないだろう。いや、言うつもりはなかった。

明日の試験、本当に頑張って欲しいと思った。

15:20分、授業を終わるのを教室後方のドアの前で待って、みんなに、バイバーイと声を掛けて自転車に跨った。

今日は、人生最速の走りを出すつもりでいた。

いつも通る自転車道ではなく、禁止されている国道を一気に駆け抜けるつもりでいた。

よーし、せーの、シャー!

15:41分。自己ベストを更新して雀荘ビルに到着できた。

速攻で、ユニフォームに着替えて、タバコも吸わずに、1階へ飛び降りて行った。

ガチャン、タイムカードに15:45分の時間を打ち込んだ。

ミッチャンのシフトは、昼からラストまでになっていた。

一応、念のためにとタイムカードを確認すると、11:53の時間が刻まれていた。

よーし、大丈夫だ、ちゃんと出勤している。

しかし、1階にミッチャンの姿はなかった。

誰かに聞けばいいんだろうけど、その時間すら惜しい気がして、もう一度、3階の更衣室まで戻った。

でも、やはり、そこにもミッチャンの姿はなかった。

あまりにも焦っている自分に気が付いて、タバコに一本火を点けて落ち着かせた。

何て言おうか、やっぱり、試験頑張れよ、かな、、

ミッチャンなら受かるよ、大丈夫自信を持って、、ちょっとクサイな。

いろいろ考えて、2階へ下りて仕事を始めた。

10分程、経った頃だった。

ビービー、ビービーと内線が鳴って、近くに誰もいなかったので俺が受話器を上げた。

はい、2階です。

おー、野上か、丁度いい。ちょっと上に来てくれんか。

それは、島崎課長の嬉しそうな声だった。

分かりましたと伝えて、スグにエレベーターの4階を押して上がって行った。

課長、お呼びでしょうか。

おう、野上、こっちこっち。いつもの革張りソファーの方に呼ばれて、足を進めると、

あッ、ミッチャン。

そこには、ミッチャンが後ろ向きに座っていた。

ミッチャンは、俺の声に反応して、ソファーに座りながら、首だけを振り向かせて、おはようと声を掛けてくれた。

野上、まー座れ。

ミチコは、これから出発なんだ。

え、明日じゃなかったんですか。

流石に仙台は遠いさ。今日中に到着して、明日試験を受けることになっている。

知らなかった。てっきり、明日の朝出発だとばかり考えていた。

ミッチャンは、私服でソファーに座り、両手で仙台行きのバスのチケットを握りしめていた。

ちょっと緊張している感じだった。

野上、ミチコが出発前にお前と話をしてから行きたいって言うから呼んだんだ。

ここじゃ話しにくいだろう。良いぞ、外で話して来いよ。

後、30分ぐらいあるから、行って来い。

ミッチャンは、課長に、ありがとうと言って、先に席を立った。

俺も、つられて席を立ってミッチャンの後に続いた。

ありがとね、ノッポ、バイト中に。

良いよ、別に。課長に呼ばれたんだから、問題ないしょ。

ミッチャンは、緊張しているのか、覚悟を決めているのか、いつもとちょっと様子が違っていた。

今日も、屋上にしよっか、ノッポ。

オッケー、なんか、飲み物買ってく?

ううん、今日はいいよ。

そうか、じゃ行こう。

エレベーターで屋上まで上がって、この前と同じ場所でタバコに火を点けた。

ねえ、ノッポ、あれからどうしてた?

え、あれからは、3日間ずっとバイト来て、月曜は休めって言われたから初めての休みで、今日また来たかな。

本当は、ずっとずっとミッチャンの事考えてたよ。でも、それは言わない事に決めてたから黙っておいた。

そっか、普通にしてたか。

私は、苦しかったよ。

試験の事も、ぜんぜん分からないしね。

どんな格好で行けばいいかも分からないし、みんなにも会いたかったし、、

たった、4日間だけなのにね。

試験に受かっちゃったら、転校だし。

行きたくないって、何回も何回も思ったんだよ。

、、、何も言えなかった。

でも、ノッポに決めたって約束したから、、

うん。

俺は、本当に、ミッチャンの事、応援してるから、本当に。

これが、精一杯だった。

きっと、ミッチャンは不安一杯でつぶれそうなのを何とか頑張っているんだと思った。

じゃあ、私、行くね。

おう、頑張れよ、本当に。

この言葉を最後に、屋上を後にした。

エレベーターに乗ると3階で荷物を取ってから行くと言うので手伝うことにした。

男女別々に二つの入り口があるのに、中に入ると部屋は一つに繋がっている。

細いロッカーが12個ずつ背中合わせのロッカールーム。

そう初日に、ここでミッチャンに出会って、

口紅の付いたタバコをくれたんだった。

そんな事を思い出していると、

ねえ、ノッポ、ボストンバック奥に置いてあるからお願いしてもいいかなと言って、

自分は、追加提出のスケッチブックをロッカールームに取りに行った。

倉庫に行くと大きめのピンクのバッグがあってスグにこれだと分かった。

割と重かったから両手で持って戻って来ると、既にミッチャンが待っていた。

後は、階段を2階、そして、1階へと下りるだけだった。

ノッポ、ありがと。

いいよ、大丈夫。このくらい。

ううん、カバンじゃない。

全部、お母さんの事とか、、それに新しいお父さんの話も、、

そう言いながら、ミッチャンは、スケッチブックを壁に立てかけて、俺の方に近寄って来た。

そして、ボストンバックを俺の手から外して下へ置いて、

もう一度ありがとうと言って、、

優しく、チュッ、ってしてくれた。

ビックリし過ぎて、どうしていいか分からなかった。

そんな、俺を見て、ミッチャンはフフって笑って、階段を下りて行った。

【ミチコ編 完】

★★★★★★★★★★

【おまけ】

階段を先に下りて行ったミチコは、ボストンバッグをわざと置いたままにした。もちろん、ノッポに持ってきてという合図だった。後を追いかけて、1階まで行くと、みんなが旅立つミチコに声を掛けているところだった。ミチコ頑張って来いよー、ノッポも小さく声を出して見送った。

【追記】

長かったですね。全16話、読んでいただくのも大変だったと思います。お付き合いいただきました皆様、本当にありがとうございました。

実は、この物語は続きがありまして、ミチコの続編、新しい女キャラ(250㏄バイクに跨る女)が登場する番外編などがあります。

詳しくは、あとがきに書くつもりですので、そちらをご覧下さい。

★★★★★★★★★★

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