新人、加藤星美。強みは、チャレンジ精神です。

人には、生まれ持った得手不得手がある。

私の画力などがその典型で、どれほどの努力を持って練習しても、並みな小学生にアッサリといわされてしまうお粗末なレベルとなっている。

皆、学生時代までは、勉強やスポーツ、延(ひ)いては女子(男子)の選択に至るまで、何とか自分の得意を掘り起こしてアピールする。

天武の才を持つやつ、人より秀でたやつなら問題ないが、普通の人は、飛んだり跳ねたり勉強したりと、努力を持って己が得意を探すことになる。

結果として、その中のいくつかが自身の強みとなり、学生時代に花が咲けば青春を謳歌できるだろう。

しかし、大概は、ちょっと得意レベルで止まってしまい、次へ次へ、先へ先へと持ち越して、なかなかしっかりとした強みに仕上げられなかったのではないだろうか。

だが、心配はいらない。凡人と呼ばれる方はみんな五十歩百歩だ。

しかし、青年期を境にして、努力の向こう側に「成果や対価」を求めるようになると、「努力=未来」という正しく美しい言葉の使い方を忘れ、内に秘めた可能性に自分自身で終止符を打ってしまう。

読者の中の10代諸氏よ、自分の脳力を冷静に分析することは正しい行いだ。

だが、努力を諦めてはいけない、また楽をしてもいけないことを覚えて置いてほしい。

これ以上は無理、そう思ったその先に、本当の努力という文字が書いてあるのだ。

強みを掴み取るも手放すも、君自身の選択で決めれば良いことになっている。自由な選択なのだ。

さて、今回は、一人のゲストに登場してもらうことになっている。

彼女の名前は、加藤星美(22歳)

一応希望の大手アパレル系に入社できて、

只今、新人研修の真っ最中。

毎春、桜花の前を溌剌(はつらつ)とした気分で迎えた新学期の4月はもう来ない。

あー、昨年まで学生だったんだなーと、第三会議室から見えた桜の花にちょっと思いを巡らせた時、

加藤ーッ、

ハイ↑ッ、

お前の強みは何だ?

研修担当の藤崎係長が、大きな声で聞いて来た。

よし、何度も練習した設問だ。

就活特集の載っている雑誌、ネット、週刊誌には必ず目を通していたし、大事な個所は覚えてしまうほど読んだ。

先生とも、友達とだって、話し合ったことがある。

強み

えーと、私の強みは、何事にも積極的に取り組む事と失敗を恐れないチャレンジ精神です。

そうか、ありがとう。

藤崎は、ちょっと間を取って加藤を見たが、褒めもしなければ、貶(けな)しもしない。

よし次、宮田ッ、君はどうだ。

ラグビーです。

分かりやすいな、お前は。俺と同じ体形をしている。

俺も、ラグビー部だった。

ハハハ、、、(ちょいウケ、みんな付き合い笑い)

えーと、じゃ、川瀬君だっけか、君はどうだ。

ほー、凄いじゃないか、TOEIC915点か、、

ペラペラのMiss Kawase, Thank you、 確かに強みだ。

よーし、次は、、吉河にしようかな、、、、

どうしてだろう、

どうして、係長は、何も反応しなかったんだろう。

星美は、自分の答えを反芻していた。

積極性を持って、チャレンジ精神で、、

特に間違った答えじゃない。

次から次へと進んでいる同期達の強み話は耳に届いて来ない。

「そうか、ありがとう。」

藤崎係長の、そっけない返事だけが耳に残って、劣等感からか胃の辺りでツーンと痛んだ。

嫌われてるの、、

そんなはずはない。係長とは今日が初対面だし、、

60分の研修時間は、あっという間に過ぎてしまった。

昼の休憩時間も尾を引いて、このところお昼を一緒にとるようになった同期達に、

”今日は元気ないね”、どうしたの、

と言われたことにも少し腹が立って、ちょっと用事があるからと先に席を立ってしまった。

誰も何も気付いていない。正直、そんな些細な出来事だった。

自分自身でも、気にしない気にしないと思い込ませようとしたけど、ダメだった。

係長の、あの一瞬の、返事を探したような間、

そして、私を見て、間違いなくその返事を引っ込めたようだった。

何を言いたかったの、、

知りたい。

星美は、こういう細かいことが気になる自分の性格があまり好きじゃなかった。

学生時代、友達から星美は観察力が凄いねって褒められた。

友達からの、彼のことどう思う、すごくいい人みたいでしょ、ねーねーどう思うって相談にも目一杯のってきた。

でも、それは、自分の答えにいつも自信が無くて、否定されるのが怖かったから、キョロキョロ先回りして喜ばれそうな答えを探して答えていただけの事。

あー、何とかならないかなー、この性格。

ダメだ。

来週からは、各店舗に分かれてのOJT(On the Job Training)が始まるのに。

それに向けて、昼からの研修は、オペレーション上の注意点で、覚える箇所がたくさんあったのに全く集中できなかった。

あー、

どうしても、聞きたい。

自分でも薄々は分かっている。

積極的、チャレンジ精神が、ダメだったんでしょう。

でも、、、

加藤さん、会社でのQ&Aは、コピペだけじゃダメだよ。

いいかい、世の中は毎日変わっているんだ。

会社だって、人だって、人っていうのはお客様とか、取引先の担当の事だけどね、商品、トレンド、ビジネス環境、、

全部だよ、毎日わわわわーって動いて変わってく、新しくなって行くんだよ。

誰かの焼き直しみたいな答えじゃダメだし、誰も興味を持ってくれないよ。

そう教えてくれたのは、午後の研修を担当してくれた広報課の安村係長だった。

社会に出れば、初めて耳にする単語が山のよう出てくるし、今まで少しも考えたことが無かった質問がQになって、至る所から飛んでくるんだ。

それでも、出来る限りの知恵を絞って、それも瞬時にA、すなわち答えを出さなきゃならない。

それを、やってくれるからこそ加藤さんは給料をもらえるんじゃないか。

教科書に載っている模範回答なんて役に立たないよ。

そんなのが必要なら、バイトさんでも良いんだから、、

あ、勘違いしないでよ。バイトさんを見下している訳じゃないから。

中には、優秀な人がいるからね。

おっと、時間だ。

藤崎には言っておくよ、

加藤さんがが気にしてたってね。じゃ、

あ、ちょっと待ってください、それは内緒に、、

強み

自分で得意と思っていても、みんなも出来る事なら、強みにならないか。

他の人には出来ない、自分自身の宝物。

確かに、積極的で、チャレンジ精神、、

新入社員なら、全員が持っていて当たり前か。

でも、「そうか、ありがとう。」

ありがとうって、何よ。ちょっと、バカにされたみたいじゃん。

よーし、見つけてやるー、私の強み。

頑張れ、加藤星美、期待のホープなんだろ。

、、続くかも、、

 

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