(13) タイ、バンコク、トゥクトゥク物語【手を掴んできたバディさん】

携帯に現れた、たった一行のメッセージ。

— have a good sleep. Good night! xxx

その言葉の一文字一文字を愛しむように眺めて、そして、携帯を閉じた。

サラリーマンとして仕事をしていると、日々膨大な数のメールやメッセージを処理することになる。

しかし、一通のメッセージに、これほど心躍らせ一喜一憂することなど未だ嘗(かつ)てなかった。

間違いなく、心を奪われかけている証拠だ。

文字とは、心で読むものなんだと改めて思い知らされた。

酔いの方は、8分目と言ったところか。明日のダイビングの事を考えて幾分とセーブして飲んでいた。

こりゃ、ちょっと携帯を封印した方が良いな、なんて心にもない事を想像しながら三日目の夜が過ぎて行った。

★★★

四日目の朝、ダイビング初日。

7時30分集合、8時過ぎに出船という事で、それほど早いわけでは無かった。

1階まで降りるとドアガールがワイと共にGood Morning Sir. と軽く挨拶してくれた。

サワディカップと返事をすると、今日はダイビングですねと言ってくれたので、楽しんで来るよとステップを踏んで外に飛び出した。

店に着くと、既に数組が到着しており店の中で説明を聞いていた。

ロシア人のカップルは今回が初めてのダイビングのようでリーダーのボックス君の話を緊張しながら聞いているのが分かった。

私の入店を見つけたボックスが奥の方を指さした。

そこには、3人組の女の子達が座っていたのだった。

おおー、あの中の一人が今回のバディーさんだな。ちょっと、挨拶しておこう。

近づいて、ワイをしながらサワディカップ。

「サワディーカー」3人が揃って返事をしてくれた。

みんな、それぞれにカワイ子ちゃん。こりゃ堪らん。

あのー、この中に今日の私のバディさんがいらっしゃる筈なんですが、、、

あッ、はい。私です。

細身で目のクリッとした女の子が手を上げてくれた。

そうですか。どうぞよろしくお願いします。

流石に、手を差し伸べて握手を求める事はしなかったが、自己紹介はしておいた。

こんなかわいい子とダイビング・ランデブー。

きっと、今回のタイ旅行は当たりだ。

朝から、気持がハイテンションになって、ちょっと昂って来た。

悟られてはいけない。ここは、長居せず一旦引き下がろう。

じゃ、今日はよろしくお願いしますと声を掛けるのと同時ぐらいだった。

Everyboby、では、そろそろ出発しまーす。

あと一組は、ホテルで待っていますから道中でピックアップしながら行きますので、皆さんはバスに乗り込んでくださいとアシスタントが出発を告げた。

最後の一組と言うのは、日本人の二人組男子だった。

バスは、そのホテルの前で一旦止まり、ドアが開くと二人がGood Morning! と一声掛けて乗り込んで来た。

やや緊張している様子だった。

確かにそうかもしれない。外人ばかりが乗り込んでいるバスだ。

よほど海外慣れしていなければ少し緊張するシーンかもしれないなと一人想像を膨らませた。

★★

天気は、最高だった。

皆で乗船して出航すると、今日の予定とダイビングのブリーフィング(諸注意説明)が行われた。

同時に、今日の参加者全員とバディの紹介もしてくれた。

参加者は昨日聞いた通り、合計で12名。全員一緒に潜るが、チームは2つに分けて潜るとの事だった。

女の子3人と日本人3人が人チームAで、残り6人の西洋人がチームBとなった。

ダイブマスターのボックスは、Aチームの先頭を行くから私には最後尾をよろしくと伝え、Bチームには2人のアシスタントが前後を挟んでダイビングする事になった。

船は30人以上が乗れる大型で2階にもデッキがある立派なものだった。

一本目のダイビングスポットまではゆっくりと進んで1時間ぐらい海上を走った。

船長が錨を沈めて到着の合図をボックスに送る。

OK。

親指を上げたボックスが、では、皆さん、機材を身に付けてバディ同士で最終チェックを行ってくださいとアナウンスを掛けた。

重いタンクとダイビングの機材を身に付けてジャイアントスライドエントリーで海に飛び込む時、参加者はそれぞれに緊張する。

私のバディさん、名前はマイちゃんだった。

乗船してから、ここに到着するまでの約1時間、お互いにこれまでの経験などを話し合って仲良くなっていた。

事前にボックスから聞いた情報通り、3人共にダイビングは初心者でライセンスを取ったのも一緒らしかった。

今回が3回目のダイビングとの事で少し緊張していますとソワソワしていた。

ちなみに、日本人の男子二人組もそれぞれに5回目ぐらいという事でほぼ初心者であった。

この中では格段に私が経験豊富なダイバーだったので、念のために、みんなのダイビング機材をチェックしながら、船の最後尾の所定の位置に着いた。

それでは、皆さんゆっくり行きましょうと声が掛かり、最初にBチームのアシスタントが一人、ザ・ブ~ンと飛び込んだ。

そして、船の方を振り返って、OKサインを投げてよこす。

その後は、客が順番に飛び込んでは、OKサイン。

全員の入水を確認した最後にボックスが飛び込んだ。

水の透明度はまずまずだったし、色とりどりの魚が綺麗だった。

大物の巨大なクエとサメが数匹見えた時は、みんな驚いていた様だった。

最初のダイビングは、25分ぐらいだっただろうか。

初心者が多かったから、ゆっくりと進み短く切り上げた様だ。

それでも、船に上がったみんなは満足そうにサメの話でもちきりになった。

タイ人の女の子も、日本人の男子も、サメを見たのは初めてという事でかなり興奮して話していた。

マイちゃんは、入水時にかなり緊張していたので手を取って落ち着くのを待ってあげた。

久しぶりのダイビングだったせいか、サメを見たせいか分からないが、ダイビング中は終始私の手をギュッと握りしめて離さなかった。

船に上がってからは、その事をかなり気にしていて、すみませんでしたと詫びながら何度も「ありがとう」と言ってくれた。

みんな最初は緊張するから大丈夫と言うと、他の2人も大きく頷いて私達も緊張してたんだよとマイちゃんを気遣っていた。

とても仲の良さそうな3人組だった。

2本目のダイビングは、場所を変えるとのことで移動した。

再び、船長が錨を下ろしてボックスに合図した。

えーと、2本目のダイビングまで少し休憩を取ります。

開始は、1時間後になりますのでそれぞれにデッキで過ごしてくださいとの事だった。

飲み物は、ミネラルウォーター、紅茶にコーヒー、缶のソフトドリンクを用意していますのでご自由にどうぞとアシスタントが伝えてくれた。

★★

何か飲みますか? 

私、取ってきますねと、マイちゃんが気を利かせて声を掛けてくれた。

あ、ありがとう。

じゃ、コーヒーをお願いしようかな。ホットでね。

マイちゃん達がドリンクを取りに行っている間、2階のデッキに上がって海風に当たって空を見上げた。

最高の気分だった。

澄み切った青空には雲一つなく、目の前には青い珊瑚礁の海が広がり、今私はダイビングをしている。

それもプーケットでだ。

そして、バディさんは可愛いタイ人の女の子。正に、天国のようだった。

数日前まで、倒れそうに忙しく働いていたことに笑いが込み上がって来た。

たまには休んだ方が良いなと一人呟いていると、はーい、おまちどうさまでしたと、マイちゃんがコーヒーを運んで来てくれた。

インスタントだったが、とても美味しいコーヒーだった。

しばらくはダイビングの話しで盛り上がり、一段落したときに聞いてみた。

ところで、3人はどういう友達なの?

えーと、私達は仕事仲間なんです。

へー、そうなんだ。じゃ、3人で休みを取ってホリデーに来たってこと?

えぇ、そうなんです。

ちなみに、ここまでの会話は全て英語であった。

彼女たちの話す英語はとてもきれいで間違いがほとんどなかった。

決して、ストリートで覚えたようなものではなく、しっかりと教育を受けた英語だった。

三人とも英語がとても上手いんだけど、仕事は何をしているのと続けて聞いた。

私達、みんなタイ国際航空のCAなんです。

えーーーーーーーーッ!

CAさんなのー!!!

まさに、青天の霹靂だった。

そうなんだー。どうりで英語が上手いと思ったよ。

国際線の担当なので英語は得意で問題ありませんとの事だった。

初めてだった。現役のスッチーさんと知り合えて、ダイビングのバディまでご一緒しているなんて。

こんな幸運があって良いのだろうか。

きっと、次に飛び込んだ瞬間、サメにガブリと食われるなと心配したほどだった。

一旦、こんな情報が頭にインプットされるともうダメだった。

この後は、もう冷静な目で見られなくなってしまった。

なんてったってスッチー、なんてったってシーエー、こんなフレーズが頭に浮かんでは消えていく。

目の前の水着姿の女の子はスッチー!!

2本目のダイビングは、間違いなく私の方が緊張していた。

一本目と同じく、少しバランスを崩したマイちゃんに手を差し伸べると、ギュッと掴み返される。

しかし、その時も、ああーッ、スッチーさんに手を握られているんだと考えてしまって、ウエットスーツの中のおとこの生身が悶え騒ぐのが分かった。

離すまい。

今しばらく、この手を掴んでおこう。

ブクブク、ブクブク、いつもより大き目の泡が、マスクの前を通って上に登って行ったのだった。

つづく、、

★★★

【おまけ】

旅はパラパラ漫画を進めるようなスピードで場面を変えて行く。

次から次へと新し出来事に遭遇して、一つ一つを振り返っている暇を与えてくれない。

2本目のダイビングを終えて港に向かう途中、ボックス君が一つ提案があるとみんなに話し掛けてきた。

今日は、天気も良く最高のダイビング日和でした。

あと少しで港に着きます。その後、一旦ショップの方へお送りいたします。

そこで解散となりますが、今夜、みんなで飲み会をしませんかとのお誘いだった。

このショップでは、ダイビング終了後、大概はみんなで夕食に出かけているらしかった。

ショップの中にも、そんな感じの楽しそうな写真がいくつも貼られていた。

私は、もちろん参加すると手を上げた。

続いて、女の子3人組が手を上げると、男子二人もすぐに手を上げた。

ヨーロッパ組も、ダイビングを通してみんな仲良くなっていたので、結局全員が参加することになった。

プーケット4日目、今夜も何やら楽しくなりそうな予感がした。フフフ。

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