(1) タイ、バンコク、トゥクトゥク物語【初日報】
初めてタイへ行くことが決まった。
同僚に勧められるがままに、バタバタっと慌ただしく大した準備もしないままに出発当日を迎えてしまった。
それでも、空港でチェックインした辺りからテンションも上がって来たし、飛行機に乗ってしまえば、もうまな板の上の鯉。
後は、出たとこ勝負の楽しい旅が始まるのは分かっていた。
元々、旅へ行くときは先入観をあまり持ちたくないと言う理由から事前に情報を調べるようなことはしない。
もっぱら、情報は現地調達。
それが一人旅の基本と心得ている。
もちろん、その分アクシデントまみれになるのは必定だ。
でも、それがまた楽しいと股間もギュンギュンと共鳴するから止められない。
例外的に、ヌーディストビーチへ行った時の様に頭に響いたキーワードを事前に調べる事もあるが、その行動はあくまでも旅が始まるまでの楽しみ方と捉えていただければ結構だ。
所詮は気楽な一人旅、タクシーに乗るつもりならそれほどの事前情報は要らない。
従って、今回も、お寺が多いだの、食い物が旨いだの、人は優しいだのと、雰囲気は理解できても実務的にはほぼ役に立たない情報のみを聞き取って飛行機に乗り込んだ次第だ。
それでも、我が身は既にタイという見知らぬ国のローカルタクシーの車中にあり、今まさに運転手から分かる筈もないタイ語を浴びせかけられているのだった。
★★★
おいおい運ちゃん、大丈夫か。
今さっき英語でやり取りしたばかりじゃないか。
確かに、アジアホテルに連れてい行ってくれと言った私に対して、オーケー、イエスと返事があったのみだが、それでも英会話だったじゃないか。
その相手を捕まえて、いきなりタイ語でべらべら喋ってどうしようと言うんだよ。
確かに、タイ人の運転手は英語など出来なくとも空港で客待ちをして、タイ語オンリーでガンガン話しかけてくる。
相手の想像力をマックスレベルに発揮してもらい、ガイドブックに載っているタイ語集を駆使して、何とか通り名とホテル名を聞き出して、笑顔でOKと押し通す。
実に素晴らしい。
間違いなく、思い出に残る観光旅行者へのおもてなし技法だ。
でも、それが理解できるのは、タイ人との付き合いが長くなった今だからであって、その当時の私には無理だった。
さてさて、こちらは会話のキャッチボールの2投球目で、いきなりタイ語を投げられて受け取ったは良いものの、、
#$%&’(’&%??? ア・ジ・ア・ホテル、、
分かる分けが無い。
それでも、運転手は私の返事を待っているようだった。
ア・ジ・ア、ホテル。
運転手が口にした言葉で唯一理解できる部分がこれだ。
文章の中に残されたヒント中のヒント、、
んー、、、無理だ。
流石にパズル好きを自負している私とて、ホテル名というパーツだけではどうしようもない。
あ~ん、ア・ジ・ア、ホテル、what?
英語か日本語か分からない言語で苦し紛れに会話風に投げ返してみた、、
行けたか。
運転手が少し間を取って、フフフともハハハとも区別のつかない、なんとも微妙な返事をして来た。
フハ、、、、、笑みをこぼしている。
だが、我々二人はズブの素人という分けではない。
ベテランの領域に差し掛かった経験者なのだ。
だから、お互いに何かを感じ取っているのだ。
そして、分かっているのだ。
コイツは、厄介だぞと。
運転手:タイ語が全く分からないみたいだな。どうすんべー。
私:英語が全く分からないみたいだな。どないしょー。
二人で:ニタリと笑って、フフ、ハッハァー。
この会話、バックミラーの中で8割、運転手が振り向いて1割、こちらが首と体をグイッと前に乗り出して1割で行われたものだった。
30秒ほど間があって、何度か作り笑顔でチラッと見合う鏡の目線、、
なんの緊張か知らんが背中の汗が高速落下中だ。たら~り。
そして、次の瞬間だった。
運転手:OK, Let’s go. Aisa Hotel….
私:Oh—, Yes. (助かったーッ。)
この後も、しばらくは得も言われぬ空気感と割と重い雰囲気が車中に漂ったが、途中で運転手がタイの音楽を掛けてくれたから幾分空気が軽くなった。
高速道路は空いており、タクシーは目的地を目指し快適に進んでいる。
30分ぐらい走っただろうか。高速道路を降りると少しづつ道が混んで来て、結局ホテルまでは1時間ほどの時間が掛かった記憶がある。
何はともあれ、アジアホテルの玄関先へ到着したのだった。
メーター料金を払って、運転手にThank youと告げたのは夕刻前だった。
まだ陽の明るさは残っている。
さっさとチェックインと着替えを済ませれば、明るいうちに外へ出掛けることが出来そうだった。
到着したホテルは大型で、少し古いがロビーが大きい立派なホテルだった。
今回の旅は自身で予約をした分けでは無い。
知人が全部手配してくれたのだった。
それでも、チケットやホテルバウチャー(予約券)は自分で受け取りに行ったし、ホテルに関しての情報は直接聞いていたのだった。
少し古いが大きなホテルで何よりも立地が最高という触れ込みだった。
ガイドブック評価は四ツ星だけど、水回りが弱いから期待値は三ツ星~三ツ星半と言ったところですと聞かされていたのだった。
正に、バッチリの評価だった。
初めてのタイで、一人旅の上にタイ語がゼロレベルという私の旅スペックを考えてこのホテルを選んでくれたらしい。
確かに、初日のホテルが大きいと安心できる。
どの国でも同じだが、出掛ける時はなんの苦労もない。
しかし、ホテルに戻る時には注意が必要だ。間違いなく、酔っぱらっているからである。
以前、違うホテルに帰ったことがあって大変な思いをしたことがある。
その点、大きなホテルだとホテル名を運ちゃんに伝える事さえ出来れば、大体は無事生還できるはずだ。
★★
空港からのタクシーでかなり臭い汗をかいてしまった。
流石に着替えをせねば外出禁止レベルだ。うっぷーッ。キツイ。
クイックシャワーで石鹸の香りを体中に漂わせ、ベルボーイに目配せをして玄関の大きなドアを外へ出た。
あッ、ホテルカード、これを忘れてはいけない。
数歩戻って、ボーイにカードを貰って、いざ出撃。
何処へ行こうか、、、
まだ、夕飯には少し早い。
今日は少し、歩いてみるか。
ホテルの前は、割と広い車止めになっていて表通り迄は少しある。
少し跳ねるように左・右、左・右、軽快に歩き出して表通りに出る時だった。
ちゃちょさん、ちゃちょさん、、
ん?
なにやら乗り物に跨った運転手がこちらに話しかけている。
私か。
私だろう。
私しかいない。
きっと、拉致の誘いだ。
さあ、どうしようか。
表でタクシーを捕まえて、さっきの運転手みたいだと時間を無駄にしてしまう。
なになにー、運ちゃん日本語が出来るの?と聞いてみた。
はい、できます。横浜にいたことがあります。
へー、そうなんだ。
いかん、返す言葉が興味を持ってしまったときのトーンになっている。
それに、彼の跨っている乗り物は何だろう。見たことが無い。
暫く彼の説明を聞いていると、これはトゥクトゥクと言うタクシーでいろいろなところに案内してくれるというのだ。
運転手は、濃い色のサングラスをかけていたがスポーツ刈りがスッキリとした感じだった。
上は緑のポロシャツで、下は白の短パン、靴はスニーカーを履いていた。
見た目には清潔感があり、言葉使いも丁寧だった。
よし、時間も時間だ。
じゃ、ちょっと頼もうか。
街中をグルーッと一回りして、後でレストランに連れて行ってくれと頼んでみた。
ここまでの一連のやり取りは大半が日本語で、時折英語を混ぜての会話だった。
了解しました。では、前金で200バーツ(約600円)ください。
後は、行くところによって値段が違いますから後払い良いですと交渉が成立し、ブン、ブン、ブーンと景気よく出発したのだった。
彼のニックネームは、ken(ケン)。
以前は、白人を相手に商売をしていたのでその名にしたとか。
でも、今は日本語を覚えて日本人をメインにガイドをやっているとの事であった。
私もガイド業の経験があったから、説明を聞かなくてもなるほどと納得がいった。
とりあえず客を捕まえて、要望を聞き、おススメなんかを入れ混ぜながら決まった店に連れて行くと言う事だろう。
ま、それはそれで構わなかったし、上手く使えば時間の短縮にはもってこいだ。
とりあえず、街中をゆっくりと流しながら、信号待ちの間にさまざまな情報をゲットする事が出来た。
もし疲れているなら、足マッサージ、タイ古式マッサージのいい店を紹介すると言ってくれた。
マッサージは、お客次第で1時間、1.5時間、2時間を選ぶシステムになっているとも教えてくれた。
へー、マッサージかあ、朝早くから飛行機で、到着してからもずっと動きっぱなしだ。
正直、マッサージは望むところだった。
事前の情報でも、タイに行ったらマッサージをやった方が良いとの話もあった。
よし、マッサージに行こう。
上手いのがいるところに連れて行ってくれよ。
イエッサー! ブ~ン。
つづく、、
★★★
【おまけ】
ボス、着きましたよ。(ちゃちょさんと呼ぶのは、気持ち悪いから止めさせた。)
ここがお勧めのマッサージ店です。
親指を立てて、最高っすよと、笑顔を作っている。
へへ、それに、若い子、いっぱいですから。
可愛い子にしてくれと、ちゃんと、言ってありますから大丈夫です。
俺は、ここで待ってますから。
ごゆっくり。
えッ、
若いの、可愛いのって、、
違うって、上手いのがいいって言ったじゃないか、、
でも、若いの、可愛いの、ホントに~、
デへ~、、
ブィーン、自動ドアが開いて、サワッディカー。
受付嬢の超キュート美人が挨拶のワイ(合掌)をしてくれたのだった。
デへ、デへ~、、
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