夜中24時過ぎ、囁く女は、天使か悪魔か。【前半報】

夏は暑いのが当たり前。

日中は、ガン、ガン照りの外回り。

ざっと捲り上げた腕がジリジリと焦げる。

開店前の居酒屋の前をお通ると、水着の美女がビール片手に、早くおいでよ~ッ/と誘い掛けて来る。

よーし、早く仕事を終わらせて、彼女の店に直行だー!

店に入るや否や、あのお姉さんのビールちょうだーい。

ハーイ、生中、お待ちどうさま。

これだ。このキンキンに冷えたグラスが俺の唇を虜にするんだ。

グビーッ、あーッ、このビールは無敵だ。

それが証拠に、必ず、あーッ、と声が出てしまう。

この時ばかりは、例え超セクシーなゴージャスガールがグラスの横で唇を出してキッスを求めても、まず先にグラスの方にしゃぶり付いて袖にするだろう。

落とし込んだビールが喉から直線の冷たい筋となって落ちる時、あーッツ本当に生きてて良かったと旨さを実感する。

電気が灯(とも)れば虫が飛び、ネオンが灯れば男が躍る。なんと自然な法則であろうか。

私は、基本一人で飲みに行くことを常としている。

もちろん、誘われてお断りするような不調法者ではないが、一人の方がアクシデントに遭遇できるチャンスが多いのだ。

私は、アクシデントが大好物なのである。

その性格のお陰で今回もおかしな報告ができているのである。

★★

その日も暑い夜だった。

まだ数人が忙しそうに残業していたが、お疲れー、お先にと声を掛けたのは、20時頃だった。

普段通り、1人で退社しビルの玄関先で腕時計を見る。八時か、、、

よし、今夜は焼き鳥にしよう。

会社から徒歩で10分程行くとJRの高架下にその狭い焼き鳥屋はあった。

ガラガラっと大きな音のする玄関戸を開けると、

ぁ、らっしゃいませ~、とちょっと訛りのある日本語が飛んできて席へ案内してくれる。

もう、最近では、日本人のぴちぴちギャルや女子大生が世話をしてくれる店など探しようのない程に激減している。

決して、外国人の方が嫌いなわけではない。

ただ、仕事柄、海外経験は豊富だから、ついつい無いものねだりで日本の女子大生を欲求してしまうのだ。

チューもんは?

えーと、じゃ今日は、ほろ酔いセットの串6本をお願いようかなと丁寧に注文すると、

はーい、ろっぽーん、と省略形でオーダーが通された。

オヤジは、炭をいこしながら、あいよーと楽しげに返事をしている。

ちなみに、この店には、ベトナム人とミャンマー人のウエイトレスが数人おり、みんな良く働いてくれるとオヤジさんは気に入っている様子だった。

セットの生ビールが直ぐに運ばれて、お通しですと小アジの南蛮漬けが出て来た。

ありがたい。好物の一つだ。

グビグビーとキンキンビールの喉ごしを楽しんで、あーッと声を出すと、ベトナム人の女の子が、旨い~ですねえ、と声を合わせて来た。

そう、旨いよーと答えると、

お代わりですか? と聞かれてしまった。

早い、早い、早や過ぎる。オヤジ、どんな教育しとんねん。

パタパタじゅー、パタパタじゅーじゅー、

扇がれる度に、俺の焼き鳥が油を垂らして旨そうな煙を立てている。

はい、上がったよ。

これが、合図で、6本が席に運ばれた。

お待ちどう様でーす。ビールお代わり?

分かりましたよ、飲みますよ。もう一杯ください。

この店の女の子は、徹底的にビールのお代わりを仕込まれているようだな。

まあ、焼き鳥屋は酒を飲んでもらってなんぼの商売だから当然なんだが。早いねん。

この店は、シメの鳥ラーメンが旨くて毎回頼んでしまう。

それもハーフサイズで出してくれるから、定番となってしまっている。

今日も、小一時間、居ただろうか。早々にお腹を仕上げてお勘定。

ぁ、がとうございましたー。と見送ってもらって、店の外に出た。

まだ暑い。

ビールとエアコンのせいで体は随分涼しくなったが、頭が暑い。

酔いのせいもあるが、仕事で頭をたくさん使ったせいだと自画自賛。

ヒック、気持ちいいぜ。

ここのところ、夏だと言うのに営業成績の方はまずまず好調をキープしていた。

今日も第3週の水曜日だと言うのに残業組をほったらかして、一人で飲みに出て来たのだ。

次に行くのは、お決まりの繁華街Aコース、○町通りへタクシーを飛ばす。

大体1,000円で到着できる。

それに、今日は週末の競馬で一発当てて軍資金に余裕があった。

この時点で、時刻は21時半になっていた。

ここの入り口には、ギラギラと色を変えるネオンのアーチが掛かっていて、ここから繁華街がスタートしますよと昭和の香りを残しているのが好きだった。

歩き出すと、顔見知りの客引きが声を掛けて来る。

あ、どうも、今日はどこですか? いつものところですか、今すぐ行けますよ。と軽い挨拶トークをかましてくる。

いやあ、今日は、ちょっと奥に行くからまた後でと断りを入れて、フラフラと歩を進める。

この道を歩く時は、少し酔っぱらっている方が楽しい。

店の看板のネオンが目から脳を刺激して、どの店に入ってやろうかと戦う気持ちが湧いてくるのだ。

前回来た時に気になっていた初めての店を覗いて見ることにした。

この店が入っているビルは以前にも来たことがある。しかし、この業界の回転は速い。

あッという間に新しい店に変わっているなんて日常茶飯事だ。

客としては、楽しけりゃ店の名前なんて正直何でも構わない。

ここで、女性読者に一言解説しておこう。

この、楽しけりゃ良いと言う部分は往々にして「女の子が若ければ」と言う風に訳してもらって差し支えない。

キャバクラの最重要ファクターの一つは「若さ=肌の張り」とお考えいただきたい。

その証拠は、次の会話に見て取れる。

どうも、初めまして。飛鳥です。よろしくお願いします。

ああ、よろしく飛鳥ちゃん。

ゴニョゴニョ、ごにょごにょ、そうなの、ああなの、そうなんだー。

前は、どこで働いていたの?

新しい店は、女の子も前職のある子がほとんどだ。新人もいるが、新人だけでは客は来ない。

そうか、前はあそこで働いてたのかあ。前は良く行ったんだよねー。

こんな会話が続き、そして年齢を聞く。

ところで、飛鳥ちゃんいくつ?

いくつに見えますか?

ベテランだね。

そう、こんな切り返しは20歳やそこらの子はしてこない。

まあ、敬意をもって25歳ぐらいと返事をすると、

十中八九、ありがとうございます。と返ってくる。

当然、それよりは上の年齢だろう。30ぐらいか。

そして、同席している新人っぽい子にも聞いみて、28です。みたいな子がいると、オッサンは、ここで決まり文句をかまし出す。

「ここは熟女バーだったのか」と。

これは、吉本新喜劇みたいなもので、一見さんへのご挨拶的な会話なのだ。

実際、この辺りの会話から次にまた来てくれそうな客かどうかを値踏みされているのも事実だ。

その辺り、詳しく聞きたければ旦那さんに聞いてみて欲しい。

聞かれた旦那は驚くだろうなあ、きっと。

ま、夏の余興としては良いのではないだろうか。旦那は、さらに暑くなってしまうかもしれないが。

さて、新しい店は、ごく普通の平均点だった。

特段、仲良くなれそうな子も今日は見つからなかったから、もう一回行くか、もう止めとくか、微妙なところだ。

この様に、この世界もそう甘くはない。

客が気に入るためには、あれこれ手を変え品を変えしなければ直ぐに客は離れて行く。

夏だと、女の子が浴衣を着ていてくれたり、男物Yシャツ姿だったりってのも定番の一つだ。

まあ、これもコスプレ戦略の一つであるが、結構受けが良いんですと仲の良い店長に聞いたことがる。

その後、もう一軒、常連になっている店で時間を過ごし、そろそろ腕時計が24時になった。

お開きの時間となったところでお勘定をしてもらった。

この頃、この界隈も風営法の取り締まりが厳しく、24時で閉店する店が多かった。

ヒック、酔ぱらっている。ヒック。

タクシー呼びましょうかと声を掛けてもらったが、酔い冷ましがてら表まで歩いて行くよと断って店を出た。

まだ暑さは残っていたが、それでも幾分涼しい風も感じられた。

ふら~、ふら~、気持ちいいぜ。。

お兄さん、お兄さん、ご機嫌だねー。

どう、もう一軒?

来たーッ。

そうなのです。大体、この時間になると怪しげな闇で営業している店の客引きが声を掛けて来るのだ。

当然、私の様に完璧に仕上がった、ふらリーマンをターゲットにしている連中だ。

なーに、私だってその辺は心得ている。ヒック。

最近は、怪しげな噂もチラホラ聞いている。ヒック。

ゴメン、今日は、もうおしまいです。飲めません!

そう言わずに、もう一軒だね。30プンだけ。

ん、おねえさん、どこの人?

中国人、アルよ。

ホンマか、今時そんな返事する奴いるのかとも考えたが、一瞬隙を作ってしまった。

ほんとイケナイ性格だが、好奇心が湧いてしまったのだ。

なにー、こんな時間でもやってるの?

はーい、行きましょう。

こらこら、腕を組まないで、おかあさん。

そんなこと言わないで、お兄さん。

女の子、みーんな、若いね。18才、19才、いっぱい。

嘘コケ、そんな見え見えの嘘はやめないさいと、言ったはものの、ほんまか?

今度は、大きめの隙を作ってしまった。

行きましょう。女の子、全員水着、水泳大会。

何、水泳大会、、、

水着と言う言葉には慣れっこだったが、水泳大会には反応してしまった。

ホンマいかいなー、デへ~。

セットでなんぼ?

行きましょう。3,000円。

30分プンで、3,000円ダケ。嫌なら帰っても構わない。

これが決めのセリフで、とりあえずついて行くことにした。

時計を見ると、夜中の24時を少し回っていた。

こんな時間に水泳大会ってやってんのかなあ、、

つづく、、

★★★

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