【3.歓迎会と2ケツ】駅裏 雀荘物語

金曜日の雀荘は、流石に忙しかった。

20時ごろは、一時満席状態だった。

入り口は1つだったが、部屋は2つに分かれており、入ってスグの部屋はテーブル席が6卓+2卓(予備)

そして、真ん中に水場とトイレがあり、続く奥の部屋は、通路を挟んで左右に掘りごたつ式が、それぞれ4卓。

合計で14卓(+2卓)という割と大きな店だった。

流石に、これだけオヤジ達が集まって、全員で四六時中たばこを吸えば、

部屋中が煙だらけで、ちょっと前が見えないほどだった。

昨日、島崎課長が、バイトが長続きしないとボヤいていたが、

たぶん、この強烈なタバコ臭のせいかもしれないとちょっと思った。

この日は、節子さんと俺の2人がメインでホールの面倒を見ていて、交代すると言っていた課長も流石に気になったのか、ほとんどずっと一緒にいてくれた。

夕方から来る客たちは、大概がここで飯を食いながら麻雀を打つ。

半数以上の客が、弁当という名のメニューを注文していた。

蓋つきの折弁当のことで、ご飯とおかず、漬物なんかが仕切りを使って盛り付けてあるやつだ。

酒類は、一応ビールの提供をしていたが、みんな缶ビールを持ち込みで飲んでいた。

兄ちゃん、ちょっと代わって、

客の一人が声を掛けてきた。

えッ、俺ですか?

そうや、打てるんやろ、

あ、はい、一応できますけど、、

聞いてなかった。

課長の説明では、代打ちのようなものは無いと言っていた。

どうして良いか躊躇ていると、課長さんが止めてくれた。

あかんよ、コイツは、まだ高校生や。

並べるだけでいいから、な、ちょっとダケ。

飯食うてる間だけ、後ろから見て言うから切る牌は、な。

仕方ないなーと言いながら課長は、俺を見て顎でしゃくって、

並べるだけ、やってあげろと合図した。

了解しました。

この頃は、自動雀卓なんて無いから、じゃらじゃらー、カツ、コツ、カツ、コツ、手積みだった。

その客が飯を食う間、ホンの10分ぐらいだったか、

積んだ牌を、配牌して13枚、リー牌(順番に並べ替える作業)し終えて、客を見る。

どうしますか、

弁当を食っている右手に持った箸で、いくつか牌を指して、この順に捨ててくれと指示を出して来た。

その局、お客さんは、リーソク・ツモ、ドラ一で満洲を上がり、

兄ちゃん、サンキュー。

あんたは、女神さんやでーと、ごちゃ混ぜで喜んでいた。

この雀荘、全くのフリーでは打てない事になっていた。

いろいろあるみたいだが、表向きは卓を貸すのがメインの会員制となっていた。

さて、忙しくしている時間は、あっという間に過ぎて行く。

時計を見ると既に22時を回っていた。

今夜は、この時点でまだ10卓程が稼働していて、それぞれに今夜の最終局面に突入していた。

節子さんは、22時で勤務終了なのだが、ちょっと遅れていることにブツブツ言いながら帰り支度をしていた。

たぶん、80才をいくつか越えていそうな感じだが、よく働くなと感心した。

雀荘は、23時閉店となっているが、

最後の半荘が長引く卓があって、23時には終われない事が多々あるらしい。

今日も、似たようなもので23時10分にやっと最後の卓が終了してくれて、後片付けが始まった。

この4人にしても電車組だから、ゲーム代の精算を済ませて慌てて駅に向かって走って行った。

1階の喫茶の方は、閉店が22時半までとなっている。

夜の22時ぐらいまでは、上の雀荘からの注文が入るし、立地が良いので遅い時間も一般客が結構入っていた。

少し時間を遡るが、

1階の片付けがそろそろ始まる22時ごろ、カラン、コローンと扉が空いて、

ミッチャンが雀荘の方へ上がって来た。

ノッポ君、今日これから、歓迎会するよーだって、、

行けるでしょう。

え、ここが終わってから?

下のみんなは、上が終わるまで待ってるって言ってたよ。

わ、分かりました。

行きます。ありがとうございます。

結局、店を閉めてみんなで出かけたのは、24時近くになってからだった。

そんな時間に開いてる店と言ったら、ラーメン屋ぐらいしかなかったが、

雀荘の近くには、飛び切り旨いラーメン屋があったからみんなでそこへ出掛けることにした。

下からはキヨシさん、ミッチャンとあと2人。

上からは、俺一人だけの参加だった。

雀荘の下にある喫茶店で働く人たちは、それぞれに過去があるようで、みんな話が面白い。

それに、ラーメン屋でビールを頼んで、普通に俺にも注いでくれる。

この頃は、中高生が店に入ってビールを注文しても普通に出てくる時代だった。

今、5人で俺の歓迎会をしてくれているが、3人が未成年な状況で瓶ビール3本を飲んでいる。

大人の方は、キヨシさんが40才ぐらいで、女の人は30歳ぐらいだろう。

でも、ここでは、あまり上下が無く対等な感じだった。

こんな居心地は初めてだった。

大人の世界に憧れて、ちょっと背伸びしたかったから、とても嬉しかった。

1時間ほどで、俺のための歓迎会もお開きとなった。

もう25時近いし、明日も朝から出勤だ。

週末は、喫茶が朝の7時、雀荘も9時に開店させているらしい。

18才と30代の女性2名は家が近いからとタクシーで一緒に帰って行った。

俺は自転車のハンドルを押しながら、ありがとうございました、と2人を見送って、

ミッチャンとキヨシさんの方を見た。

ミッチャンの乗ってきた原チャリの後ろにキヨシさんが跨って、

送ってけよー、わがままにしがみ付いていた。

ヤダーッ、ミチコは一人で帰るーッ、

ちょっと、何ッ、やめて-、スケベ-

ねーノッポ君、助けて-、

このオッサン、ぐりぐり押し付けてくんのー、、、

やめろーッ。

原チャリに座ったミッチャンの左足は地面について、右足がステップの上に乗っていて、

スカートがグッと捲れ上がり、太ももが全部見えて、パンツも見えそうだった。

もっと、後ろに乗ってよーと言いながら、

二人でパタパタパタッ、と足漕ぎで押し進めながらエンジンをかけて、

ノッポ君、バイビー、また明日ねー。

ビーーーンッ、と高い音を出して、手を振りながら帰って行く二人を見送った。

あの二人、そういう関係なんだろうか、、

ちょっと切ない感じが残ったバイトの初日、歓迎会の夜だった。

つづく、、

 

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