【15.ねえ、ノッポ、教えてよ、お願い。】駅裏 雀荘物語
ミッチャンの隠れた才能を聞かされた時、少しだけ怒りの様な感覚が沸き起こった。
しかし、それは本当の怒りではない。嫉妬心というやつだった。
自分には備わっていない才能を、ミッチャンが持っていることが羨ましかったのだ。
今日は、学校でみんなに、それとなく聞いてみた。
転校することになったらどうする?
試験が必要な転校ってどんな感じがする?
答えは、似たようなもので、どれも的を得たものが無かった。
それもそのはず、俺達の学校は公立高校の普通科で、
ここに来ているみんなは、一応大学進学を目標にしている面々だった。
よって、芸術的才能に成長を遂げているやつなど皆無であった。
結局、放課後の時間になるまで、目ぼしい方法が見つからないままに時を過ごしてしまった。
いつも通りに、雀荘ビルに到着して、
3階のロッカールームでユニフォームに着替えている間も、
何て切り出そうか、ずっと考えていた。
でも、やはり答えはない。
結局また、出たとこ勝負といういつものパターンになりそうだった。
1階へ下りて、タイムカードを押すと、
ノッポ、こっち、こっちと、キヨシさんが呼び掛けてきた。
チェッ、今忙しいのに、ミッチャンに話があるんだよなー、、
はい、何ですか?
あのさー、ラッキーパーラー良かったんだよ、昨日。
勝ったんだよバッチリ、と言って手を広げて指を5本出したところを見ると、
5万円ぐらいの勝利をものにしたようだった。
でも、一昨日はガッツリ負けたことについては何も言って来なかった。
良かったですねー。おめでとうございます。
適当に話を合わせて、早くミッチャンに声を掛けないと、、
まあ、聞いてくれよ。
まだ、何かあるのかよ。正直、今はウザかった。
そのー、また次も教えて欲しいんだよ。
新装開店情報。
上の客は、結構知ってるんじゃないかと思ってさ。
頼むよー、な、ノッポ。良いだろう。
あ、はい。またお客さんに聞いたら教えますよ。
気のない感じで返事をして置いた。
正直、どうでも良かった。
しかし、この人が、どうしてミッチャンとそういう関係になるのか、
男と女の事は、不思議としか言いようがなかった。
ま、ここは、リョウ子さんの言葉を信じよう。
きっと、分かれる。こんなヤツ、ミッチャンには合ってない。
それより、早くミッチャンに試験の話をしないと、、
タイムカードを見ると、ミッチャンのシフトは昼からになっていた。
しかし、店の中に姿はなかった。
奥でテーブルの片付けをしているリョウ子さんを見つけて、しばらくカウンターの横に立って待っていると、俺を見つけて、手で、おはようと挨拶してくれた。
続けて、指で上を差して、口パクで、ミチコは上と教えてくれた。
こちらも、手で合図して、ありがとうございますと返して置いた。
ここは、しばらく待つしかない。
2階の雀荘には、節子さんと佐山君がいて、
挨拶をすると、二人が寄って来た。
佐山君の方から切り出して、
ノッポ、聞きたいことがあるんだけど。
はい、何でしょうか?
ここの山城部長さんとマダムって付き合ってるよな。
え、マダム、、
不倫じゃないんですか?
な、みろよ節子さん、みんな不倫って言うだろう。
いや、違うんだよノッポ。
節子さんは、マダムも、部長も独身だから不倫じゃないって。
いやー、それは、俺もみんなが不倫って言ってたから不倫だと思い込んでましたが。
節子さん、部長さんは独身なんですか?
ああ、そうだよ。以前は嫁がいたけど、今は独身さ。
マダムの方も、以前はクラブのママで、その時は旦那がいたけど、店をたたんだ後に分かれて、バツイチだよ。
流石、40年選手は情報通だと思った。
たぶん、情報がありとあらゆる角度から入って来るのだろう。
昨日上で聞かれたミッチャンの話にしたって、島崎課長は節子さんから聞いたと言っていた。
山城会長の事だって、この会社の事だって、もの凄く詳しかったし、、
節子さんって、何者なんだろうと想像を巡らせていると、
節子さんが、わたしゃもう帰るよと言って、佐山君によろしくと声掛けして帰って行った。
佐山君、節子さんって何歳か、知ってますか?
80歳ぐらいとは聞いているけど、誰も知らないんじゃないのかホントの年は。
でも、凄くないですか、ここに40年以上居るんですよ。
という事は、40歳ぐらいの時から働いてるんですよね。
何だよ、ノッポ、確かに長いけど、何か気になるのか。
いや、別に何でもないんですけどね、、
しかし、俺は、この時微かな違和感を感じていた。
そんな事を考えていると、ビービー、ビービーと内線が鳴った。
いつものように佐山君が受話器を取った。
リョウ子さんからで、お前にだと言って受話器を手渡してくれた。
はい。
ミチコ戻って来たよー、
ノッポ、ミチコと話あるんじゃない。昨日佐山君から聞いたのよ。鬼瓦に呼ばれて上に行ったってね。
ミチコの事だったんでしょ、なんとなく分かったよ。
で、どうする? そっち行かせよっか?
、、、うーん、リョウ子さん。
今、そっち忙しいですか?
ちょっと、交代の時間だからバタバタしてるけど大丈夫っかな。
じゃ、ちょっと、ミッチャンを貸してもらえませんか。
二人で話しますから、
オッケー、大丈夫よ。
佐山君にもフォロー入れとくから電話代わって。
その言葉を受けて、受話器を佐山君に戻して、すみませんとドアを開けて階段を下りて行った。
ミッチャンは、既に上から戻ってコーヒーを客に運んでいるところだった。
カウンターでちょっと待って、お互いに顔を見合っておはようと挨拶した。
タバコどう?と誘うと、OKと指で作って、表の扉を開けてくれた。
ねえ、今日は、屋上に行こうよー。
えッ、このビルの屋上?
行って大丈夫なの?
大丈夫、ミチコは何度も行ったことあるよ。
とりあえず、ベンチの前の自販機でカルピスソーダと缶コーヒーをそれぞれに買って、エレベーターに乗り込んだ。
二人でエレベーターに乗っているだけなのに、凄くドキドキした。
それはきっと、普段は使用を禁止されているこのエレベータに、ルールを破って一緒に乗って、悪い事をしているような感情だった。
屋上には、空調の室外機以外何もなく、落下防止用のフェンスにぐるりと囲まれた四角いスペースがあるだけだった。
それでもフェンスの下には、コンクリートの土台があって腰を下ろすには十分な幅があった。
ここに、ちょっと座ろっか。
ミッチャンがカルピスソーダの一口目を飲むのを見終えてから、タバコを勧めて二人で吸い始めた。
ノッポ、何かゴメンね。島崎課長に試験の事、聞いたんじゃない。
あ、うん、絵の試験を受けるみたいなこと聞かされて、
何だよ、鬼瓦ー、自分で俺に話したことバラしてどうすんだよー。
あの人は、直球しか投げられないのか、ホントに。
ま、おかげで、話は早そーだ。
島崎課長は、ミッチャンは絵の天才だって言ってたから、
どんな絵描くのかなって、聞いて見たくて。
ハハ、天才ね。大げさなんだよ。あの人は。
ホント、スケッチとか落書きだけだからね、描くって言っても。
でも、好きなんだろ、絵描くの。
まあね。何回かは、真剣にやってみたいなーって考えた事もあるよ。
それでね、将来は、外国とかに行って勉強してってね。
へー、そんなこと考えてたんだー。凄いなー。
俺なんか、なーんも考えてないよ。
才能とか何にもないしさー。外国かあ。
で、試験っていつなの?
来週。
えっ、そうなんだー、もう直ぐだね。
でも、受けないかもしれないって島崎課長が言ってたけど。
それで、心配して俺にも話してみてくれないかって頼んだんだよ。
なるほどね。それでか、今日課長に呼ばれて、友達とかには相談しないのかーとか、
誰かと夢を語ったことは無いのかーとか、なんか熱入れて話してたから。
で、ミッチャンはどうしたいの?
うーん、正直、分かんないんだよね。
試験受けて、受かったら、新しい学校に行くんだよ。
今の学校には大した友達はいないけど、ここ楽しいし今は、特に、、
そっか、だよなー、いきなり転校ってなー。
ノッポ、学校、どこにあるか聞いた?
いや、聞いてないけど。
そっかー、遠いところなんだよ。
仙台だって。
仙台か、どこだっけ?
え、知らないの? フフッ、おんなじだ。
ミチコも知らなかったの。
ノッポ、ちょっと手貸して。
ミッチャンは、自分の細い手で俺の右手を掴んで、
掌に、ここが北海道、こっちが九州ね。
それで、東京が真ん中で、ここがビルで、こっちが私のアパートで、、
それで、、この中指の真ん中辺が仙台だねと、指でなぞって教えてくれた。
その間、ずっと、ミッチャンの指を眺めて、
その間、ずっと、心臓がバクバク言って、放心状態だった。
試験を、受けて、受かったら、私は、その学校の寮に入るんだって。
本当のお父さんが知っている学校だから、まず大丈夫だって。
絵も、もう送ってあるの、、、
後は、学科と面接の試験なんだって。
お金は、全部、本当のお父さんが出してくれるって言ってた。
ねえ、ノッポ、教えてよ、お願い。
ミチコ、ここ辞めて、新しい学校に行った方が良いのかなあ。ねえ。
つづく、、
【おまけ】
遂に、ストーリーもクライマックス。転校すべきか、残るべきか。ノッポはミチコに聞かれた質問に答えられるのか。いずれにしても、二人に残された時間はあと僅か。さあ、どうするノッポ、ミチコへ自分の想いを告げることは出来るのだろうか。
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