【6.一日8回、オットセイ部長】駅裏 雀荘物語
高校生には、ちょっと珍しい、雀荘でのバイト。
学校の友達には未だ何も言っていなかった。
たぶん、この週末の出来事をみんなに話せばスーパーヒーローになれる自信があった。
ちょっと前には、M子(推定90)の隣の席になったことを級友たちと心の底から喜んでいたのに、
今の俺は、
確実に、彼らの一歩前を進んでいる。
それほどにインパクトの強い、金曜、土曜だったのだ。
俺は、この二日間で、確実に成長した。
ミッチャンの口紅の付いたタバコも、太もものピチッン、パッチンも、もう大人のそれだったし、
衣擦れの音で俺を魅了するリョウ子さんは、
腰をグラインドさせて、タバコを吸っていた。
これだけでも、大人になったような気分だ。
見るもの、聞くもの、触れるもの、、
高二の俺は、全身の感性を研ぎ澄ませて、大人の息吹を感じ取っていた。
バイトの仕事はさして難しいものではなかった。
基本、お客さんの世話をしていれば良かったし、
特に声が掛からなければ、客のやっている麻雀を後ろから眺めていても構わなかった。
トイレに立つ客が頼めば、牌積み、配牌、リー牌(13枚の牌を整理整頓)までやってあげれば良かった。
熱戦の終わった卓は、灰皿や牌を綺麗にして、
後は、コーヒーや食事の注文を取って運ぶだけだった。
2日のやればコツは掴めたし、後は、例外的な出来事の対処法を覚えれば大体OKと言ったところだ。
これまでも、いくつかのバイト経験があったから、
忙しい職場の雰囲気の中で、機転を利かせて働くことには慣れていた。
今日は、日曜日。バイト三日目の朝だ。
出勤は10時からで、遅刻しない様に、、
いや、嘘だ、
ひょっとしてまた良い事があるんじゃないかと、
9:45分には着替えを済ませてロッカー前でタバコを吸っていた。
日曜も喫茶の方は、朝の7時から開いており、数人の女性が既に働いていた。
しばらくすると、10時シフトのリョウ子さんが上がって来た。
あ、ノッポ、おはよー、そっちも10時から、
はい、そうです。
じゃーちょっと待ってて、私も一本吸ってくよ。
でも、覗いちゃダメよ。まだ、嫁入り前なんだからー。
あ、はい。
ただ、黙って聞いていた。
リョウ子さんは、変わった人だ。
一人で話して、一人で落として、去っていく。
月光仮面のおじさんじゃあるまいし、、
でも、女だからケッコウ仮面ってとこだな、と妙に納得してしまった。
美人なのに、エロくて気さく、まさに、
今日も、女子更衣室から衣擦れの音を響かせているリョウ子仮面。
出て来た時も、最後の胸のボタンをはめながらだった。
この喫煙場所、立ち位置によっては、女子更衣室の真ん前、
今まさに、俺はそこに立っていて、ボタンをはめるリョウ子仮面の手の隙間から、
シャツの中の紫色のあの一部がチラリと見えて、
股間がキュンッと小さな音を立ててしまったから目を伏せた。
フフッ、ぜったい、このバイトお買い得やッ。
読者諸氏の中には、お気付きの方がいらっしゃるかもしれないが、
私は、衝撃を受けた時、「股間がキュンとする」時には「ギュンギュンッとする」と描写するが、
それは、この年の頃に身に付けていった雄の条件反射の一つだったのだ。
決して、面白半分で書いている訳ではなかったのだ。念のために。
さて、タバコを揉み消して三日目開始の気合を入れた。
昨日、1時間早く退社して行った不倫マダムは、日曜日で休みだった。
喫茶の方では、その話で持ち切りのようだった。
雀荘の方は、俺の事を面接してくれた、あの強面、島崎課長が朝番担当だった。
野上、お前、何か知らんか、
朝から下のやつらがやたらと騒いでんだがなあ、
えッ、いや、俺は、、
詳しくは知りませんが、、
なんだよ、詳しくはって、
知ってそうじゃないか。
たぶん、部長さんの事ではないかなと、、思いますが、、
部長、
なんだそりゃ、なんで下のやつらが部長の事で、、
言い間違えたかもしれない。
あ、いえ、そのー、部長さんというか、マダムさんのことじゃないかと、、
なんだ、マダムさんって。
正直、課長は何も知らない様子だった。
雀荘も担当するが、普段は別の仕事がメインで外での勤務が多いらしい。
話を小出しにすると、かえって分かりにくい。
ここは、自分の知っている事を全部伝えることにした。
課長はしばらく話を聞いていて、
そーかあ、分かった。
アイツ、またやってんのか。
島崎課長は、部長について少し教えてくれた。
部長さんの名前は、山城善三(ぜんぞう)と言って、この会社の三男坊という事だった。
アイツは、俺と同期だが、入社してスグ課長様のお坊ちゃんよ。
仕事はできるヤツだが、まあオーナー様一族、身分が違う。
で、マダムって、あの五月みどりだろ、こんな感じの。
課長は、両手を胸の辺りで大きく丸く作って揺さぶった。
あ、はい。
山城のヤツ、またボインに手出しやがって。
アイツは、昔っからそうだったんだ。
ちょっと年増のボインちゃんが大好きなんだよ。
けど、アイツは凄いぞ、
学生の頃は、オットセイの雌(メス)が逃げ帰るって噂だったからな。
一日8回x3日連続が最高と記録を自慢していたからなッ、やつぁ。
ちょっと、真似ができない強さだよ。
その上、麻雀がまた滅法強い。
この辺りじゃまず負けない。
それに徹マンみたいな持久戦が得意で、休憩なしのオットセイ戦法よ、並みじゃ勝てねーよ。
だが、奴は、仕事もサボらず、結構やるぜ。
ここの雀荘、公務員が多いだろう。
それも、アイツの仕事さ。
常連客のほとんどは、奴が取って来たのばっかりだ。
もちろん親父の顔もあるが、仕事はできるんだよ。
ただ、女癖が悪いし、趣味も悪い。
まぁ、ほっとけ。
そのマダムとか言うのも、直に辞める事になるだろうから。
課長さんの話は面白かった。
めっちゃ大人な話で、ついていけなかったけど、
オットセイ部長の話に興味が湧いてしまった。
8回かあ、すごいなあ、、
麻雀では勝てそうも無いけど、回数なら、俺だって、きっと、、
よーし、
つづく、、
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