初夜に残った、三つのキスマーク。

梅雨、私はこの季節が苦手だ。

長雨で気分が滅入るなどの一般的なものが理由ではない。

汗をかけば肌着が吸いついてへばり付くし、風呂上がりの薄着ですらすぐに濡れてしまう。

それに、夜這いを掛けられる回数がうんと増えるから困ったものなのだ。

いる・・・

姿は見せないが、黒い影がすっと視界を横切ったのは、土曜の夕方の6時頃だった。

箪笥の奥に隠れていたのか、西日がはす向いの屋根の向こうへ落ちたのを見計らうかのように、すっと視界に現れすぐに消えた。

まだ、気は熟していないのだろう。今宵の様子を伺いに来たのだ。

私には分かる。

こちらの出で立ちや疲れ具合を確認して、全身をくまなくスキャンして行ったのだ。

奴は一旦塒(ねぐら)ヘ戻り時を待つ。

その間、長く鋭い剣を研ぎ澄まし、こちらの様子を伺っているに違いない。

決して油断はできない相手だ。

今宵もそろそろ頃合いだ。絶対に来る。

まずは、足元の柔らかい脹脛(ふくらはぎ)か弾力のある太ももを狙ってくる筈だ。

それも、白いのがお好みらしい。

そんな彼の名は、藪蚊一刀斎。若いくせに狡猾な奴だ。

昨夜は、不覚にも指、首、おでこと三つのキスマークを残して姿を消されてしまった。

状況はこうだ。

昼の蒸し暑さが極みに達し、大事な双玉が悲鳴を上げてだらしなく熱中症になってしまった。

水、水、と求める姿に、

いかん、ややもすればコヤツ動かなくなるかもしれないと危機感を覚え、風呂場で水をちゃぷちゃぷと掛けて一息入れてやった。

フー、Thank youと礼を言われるのと同時に、ギンギンに冷えたエビスビールをプシューッと開けて、プハーッと楽しんだ。

やはり、夏の風呂上りはコイツに限る。

だが、奴はこの時、既に間合いを詰めていたのだろう。

遠巻きに様子を伺い、二缶目をプシューッとさせる音に乗じて、

ふわり、気配を消して、ゆっくりとまず小指に止まった筈だ。

丁度、肘立て枕に頭を乗せいていたから、少し手が痺れていたのも油断だった。

こちらのビールのごっくんに合わせて、一口目をチューと軽く吸い、

その後、首裏へ止まり直して、二口目をゴクリとやったに違いない。

後に残ったキスマークの大きさが、その味わいを物語っていた。

最後のおでこへのキスは、奴の置き土産と言ったところだろう。

はははッ、また来るぜ。双玉さんよ~、プ~ン。

通常、私の聴覚は鋭い。

プ~ンと音を立てれば、咄嗟(とっさ)に身構え、立ち上がる。

迂闊に間合いに入れば、パシ! 

自慢の団扇(うちわ)に浮かんだ蟷螂(カマキリ)が、藪蚊何某に一撃を加える筈だ。

耳に心地よい。

この抜刀術、0.2秒まで精度を上げてある。まずもって、躱(かわ)すことなど不可能だ。

反対に、一太刀で殺(や)らなければ、二の太刀が難しい。

藪蚊流は、殺気を消してふらりと色の付いた衣服や絨毯を保護色に、闇に紛れ飛んで行ってしまう。

こちらも、更に精神を統一し、鼻で二呼吸、すー、はー、すー、はー。

微かな気配も見逃せない。

この時ばかりは、梅雨の季節で良かったと思う唯一の瞬間だ。

これがもう少し早い時期なら、花粉症で、鼻での呼吸がままならない。

すー、はー、なんて静かな音は決して出ない。

ズッ、グジュ、ジー、ズー、ツィ、かなりの詰まりようで、きっと笑われてしまう。

さて、昨夜は不覚を取った団扇蟷螂(うちわかまきり)、今宵は報復のチャンスと作戦を立てた。

まずは、奴を一撃の距離におびき寄せなければならない。

やはり、大量の二酸化炭素を発する口まわりにおびき寄せなければ勝ち目はない。

足先が出ないようにタオルケットで巻き付けて覆い、腰から上もカバーする。

上半身はシャツを着ているから腕は生肌が出ている。

これも、右、左と順にタオルケットの中へ仕舞い込む。

残るは、首と顔面のみとなった。

上から見れば、エジプトのミイラのようだ。

私の平均体温は36.1℃、血液型はO型だ。

汗の匂いは齢(よわい)臭が混じって、少しツンと来る。

二酸化炭素が多めなのは、常に何かに興奮しているからだと調べは付いている。

だが、血管は太い方ではない。

どちらかと言えば、個室のナースたちが色白の肌と細い血管に恐れをなして、熟練ですら両手を横に広げてアメリカ風に、オーノーとなることも屡々(しばしば)だ。

しかし、それでも藪蚊流なら一発で、ズバッと命中させて来るから大したものだ。

流石は命がけ、一撃必殺を常としているだけの事はある。

私の表皮の下にドクドクと流れる熱い血潮を知っているのだ。

ならば、与えよう。

吸え、ほれ、吸うが良い。

止はしない。ただし、こちらも本気だ。

団扇(うちわ)を持たない私と気を抜くなよ。

こちらには、仕舞寸法グーの時で10㎝、パーの状態なら23㎝の縦幅を持つ両手が武器として備わっているのだ。

さあ、来い。

上下左右のへなちょこ攻撃なら、パンッと叩いて一撃で仕留めて進ぜよう。

ほー、流石は藪蚊流。警戒して距離を取るのか。

ならば少し寄せてやろうか。フー、ハー、二酸化炭素を撒き散らしてやった。

近寄りやすいように、ピッ電気も消して、いざ勝負!

プ~ン。

おッ、反応したな。さあ、来い。俺はココだ。

ピタッ。

右の蟀谷(こめかみ)に止まったようだ。

慎重に、よし、今だ。

ッ、抜けない、しまったッ。

このミイラ戦法、両腕がタオルケットの中じゃないかッ。

ちょ、ちょっと待て、藪の、、

首を左右にねじって振って払ったが、今宵一つ目のキスマークをプレゼントされてしまった。

チュー。

★★★★

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