有給休暇 殺人事件
遂に、カミングアウトする日が来たのかもしれない。
最近の暑さのせいか、頭が痛くて心も重い。
読者諸氏よ、どうか聞いて欲しい。
最初の犯行は、30年以上も前に遡る。
若さの勢いで一人目を殺めてしまった。流石に手が震えたが何とかケリを付けた記憶がある。
そして、20年前と10年前にも1人ずつ殺ったことがある。
これまで、既に3人の命を奪っているのだ。
罪に問われたことはない。
たぶん、完全犯罪が成立しているのだ。
今年は、前の犯行から10年になる。そろそろ次を考えても良いのかもしれない。
もう、お分かりだろう。
この3つの殺人事件は、有給休暇取得が動機の犯行だったのだ。
これまで、歴代のサラリーマン達は、どれほどの人間を病に倒し、幾人の命を奪ってきたのだろうか。
統計を取れば、日本の人口は既に5,000万人を下回っているのではないだろうか。
手軽なところだと、おじいちゃんか、おばあちゃんを病に倒して1泊2日。
遠縁の叔母さんの時は、3日間頂戴できた記憶がある。
皆、先輩から教わったサラリーマンの嗜（たしな）みだった。
だが、最初からいきなり殺人などの荒業を使ったりはしない。
一般的には、不可抗力から始まる事が多いのだ。
入社して3ヶ月程は、誰しもが真面目に働いて、土日祝日を中心とした休日サイクルで社会人を全うすることになる。
例外的には、会社の記念日みたいなものがあるかもしれないが、それは極めて稀だ。
しかし、日本の場合、3ヶ月という時の経過で季節が一つ前に進むから、春・夏・秋・冬、季節の変わり目を理由に体調を崩す奴が出てくる。
これに加えて、花粉症、梅雨（高湿度）、熱中症、食欲の秋、雪、クリスマスブルー等々の自然現象が起因となって起こる欠勤が一応不可抗力の部類と先人達は前例を残してくれている。
もちろん、この辺りまでは、管理職、経営者サイドも想定の範囲内だから、あまり細かい事は言わずスムースに受け入れてくれるだろう。
しかし、このサイクルが二度目を迎え、入社6ヶ月を越えると様子が違ってくるのだ。
つまり、有給休暇が発生するからだ。
この有給休暇は、労働基準法で定められた全労働者の基本権利で、フルタイムなら10日間、パートやアルバイトも勤務実態に合わせて必ず発生することになっている。（ちなみに、会社の大きさは関係ない）
入社3か月時点での休み申請は、会社としても未だ有給が発生していないから、朝に休みたいと連絡を入れれば難なく取らしてくれるはずだ。
しかしながら、有給の発生する2サイクル目以降は少し事情が異なってくる。
優秀な管理職がいると、大丈夫か、酷（ひど）いようなら医者に行けよと声を掛けてくれるし、また様子を見て連絡してくれ、と安心して休めそうだ。
しかし、
嫌味な管理職がいると、君、この前も休んでいたよね。と既に合意された昔の休みを持ち出して、有給の話もしてくれない。
いくら管理職が嫌みな事を言ったところで、有給休暇の発生に変化はないのだが、必ずつまらない事を言ってくる。
だが、実社会では、この嫌みな対応で欠勤扱いにされる従業員が実に多いとも聞き及んでいる。
いわゆる泣き寝入りが発生しているからだと思われる。
たぶん、こういう悪い会社では、未だに有給を取らせない管理職を評価しているに違いなく、会社ぐるみで取り組んでいると思って間違いないだろう。
これらは、日本企業独特の文化で、欧米諸国ではこのような事はほぼ起こっていない。
ちなみに、有給休暇の取得には、事前申請が必要になるが、風や体調不良、インフルエンザの時には事後申請での対応が一般的に浸透している運用法だ。
まして最近（2019年4月）の法改正で、有給休暇の取得割合（5割以上）が義務化されているから、本来であれば二つ返事でOKとなって良い筈と加えておきたい。
次は、少しレベルを上げて考察してみよう。
すみません。課長。
急に叔母が倒れまして、3日間程お休みをいただきたいのですが、、
部下が、この手の理由を口にする時、75％程度は嘘をついていると考えて構わないだろう。経験則だ。
まして、それが遠縁の叔母ともなれば、限りなく黒、嘘の確率が一気にジャンプアップする。95％以上だ。
しかし、会社側にそれを確認する方法はなく、嫌々、渋々ながら認めるしかない。
上級者になると、犯行が計画的になり、最初に3日程度の有給申請をして、旅行に出かけた後に追加申請を出してくるのだ。
この時は、大概の場合において殺人事件が起こっている筈である。
各犯行に共通しているのは、凶器が鋭く尖ったA４（ペーパー）である点だ。
再度言うが、有給休暇は労働者が持つ基本権利で取得に際し理由を述べる必要はない。
だが、現場の管理職は自分が取得できないのが悔しいのか、根掘り葉掘りと理由を聞いてくるやつが実に多い。
返答にもいくつかのパターンが見受けられる。
そうか、
叔母さんか、
大丈夫なのか、
危ないのか、
で、
嫁さんの方か、
お前の方か？
続けて、
家は遠いのか、
叔父さんは大丈夫なのか、
今年、初めてか、
有給申請出したのか？
↑
聞いたところで仕方のない事ばかりを、かーかー、かーかー、聞いてくるから、コイツはカラス課長と名付けておこう。
中には、こんなパターンもある。
「はいはい、分かってますよ。ハンコでしょ、ハンコ。」
「感謝してね。このハンコなければ休めないんだからね。」
「嘘か、ホントか、知る由も無し、ポン！」
「はい、押しましたよ。」
↑
こんなやつがいるのか、とお思いかもしれないが、事実いたのだ。ハンコ課長というやつだった。
このように、サラリーマンにとって当然の権利を主張するだけなのに、お笑い劇場の出し物みたいなことが実際には起こっている。
しかし、既に3人を犠牲にしている私の股間などは微動だにしない。落ち着き払って涼やかなものだ。
それよりも、来年起こりそうな連続殺人事件。そして、その犠牲者の事を考えると私の股間は、ギュンと一筋の緊張を走らせるのだった。
おばさんの旦那様よ、
ふふ、お前はもう、死んでいる。
=You are Shock!=
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