ほら、次行くぞ。今度は、あの蝉の鳴く会社だ。
村井さん、おはようございます。今日も暑いっすねー。
おお、吉田か、おはよう。
この二人は、営業部の上司と部下だった。
しかし、大半の零細企業がそうであるように、上司と部下と言うよりは先輩と後輩と言う関係に近かった。
彼らの会社は、コピー機やその他の事務機器などを取り扱う販売代理店で、総勢15名ほどの小さな会社だった。
吉田は入社2年目で、まだまだ月のノルマ達成に四苦八苦している状態だった。
反対に、村井は超がつくほどのベテラン営業マンで肩書は課長、吉田の教育係と言ったところだった。
このコンビ、かなりの年齢差があるもののウマは合っているようだった。
★★
吉田、今日は、アポが入っているのか。
あ、はい。2件のアポが入っています。
2月、8月と言えば営業マンにとって、かなりキツイ戦いを強いられる月と相場は決まっていた。
しかし、どんなに言い訳しようが日は進む。
結局は、どの営業マンにも公平に31日間しかない激戦月なのだ。
吉田の8月は、これが2度目。
初年度の営業成績は、ゼロに近い暗澹たるものだった。
その記憶は、吉田に焦りを与え、今朝の2件のアポも完全な空振りに終わってしまっていた。
いいか、吉田。
困ったときは、リストに頼るな。
足を使って会社の庭を見ろ。
庭(にわ)ですか?
そうだ、庭だ。
どんな会社にだって緑があって、木の一本も植えてあるものなんだよ。
そして、その庭が俺たち営業マンにとって重要な情報をいろいろと教えてくれるんだ。
春には桜が咲くし、夏には蝉も鳴く。
秋には、桃、栗、柿、そして次が、みかんだ。たくさんの実がなるんだよ。
桜を庭に植える会社の社長は、おとなしいヤツでさえ十中八九、目立ちたがり屋だ。
実のなる木を植えているやつは、堅実派が多いし、ギャンブルは打ってこない。
そんな四季の移ろいと共に会社の情報を教えてくれるのが庭なんだよ。
庭の手入れには、かなりの金が掛かる。大きければ大きい程だ。
だから、手入れの行き届いた庭のある会社は、そう簡単には倒産しないよ。
代が変わって、庭が無くなれば変革を迎えている会社だろうし、庭がしっかりしていれば伝統的な社風を守っている筈だ。
俺たち零細の営業には、2つのタイプしかない。
1、数で勝負する激安タイプ(=短期型)と、
2、粘りと根気で勝負する人情タイプ(=長期型)だ。
お前も分かるように、うちはじっくり行く人情タイプだ。
各地区の歴代の営業マンが長年かけて築き上げてきたのがうちの信頼でありブランドだ。
そして、俺たちも、お前たちへ繋いで行く。
たからこそ、配置転換も必要なんだッ。
、、
まあ、それは良い。
ただ、同じところにずっといちゃダメだ。
人を変え、場所を変え、大切に育てて行く。
戦略は必要だが万能じゃない。
ほんの少し環境が変わるだけで、役に立たなくなるのが戦略だ。それくらいは分かってきただろう、吉田。
一旦紙に落とした情報(資料)は、そこで終わりだ。それ以上成長する事は決してない。
常に時間は動いている。前に前にだ。そして、季節も変わる。
吉田、お前が持っている営業リストがその死に掛けている情報だ。
朝のアポがダメだった理由は、情報不足以外の何物でもなかった。
相手に売れるもの、相手が求めているものはあったじゃないか、でもお前は手ぶらだった。
まあいいさ、何とか首の皮一枚はつながったようだしな。
あ、はい。すみません。
いい、いい。謝る事じゃない。考えればいい事だ。
いいか、若い女優や流行りものを使ったマーケティングは爆発力と即効性に抜群の効果がある。
しかし、長続きはしない。
よほどの事が無い限り、しばらくすれば飽きられ入れ替わって行く。
でも、俺たち営業マンにとってはその方がありがたい。
時間の経過と環境の変化が、すなわち営業のチャンスにつながるんだからな。
吉田、あの会社を見てみろ。ビルの横の木を。
電線よりも高い所に木が成長しているだろう。
あそこまで成長するには、どれほどの月日が掛かるんだろうなあ。10年、いや、20年は経っている筈だ。
まして、蝉がたくさん鳴いている。
ありゃ、おまえ、飛んで来て止まった数の蝉じゃない。
あの木の下で生まれ育って、最低でも7年間、じっと雨風に耐えて出番を待っていた奴らだ。
そして、ずっと出勤してくる従業員たちを見て来たに違いない。
そして、今だ。
ミンミン、ミンミン、ありがとう、って礼を言っているんだろう。
お陰で地上に出られたよ。そんな気分なんだろうな。
よーし、吉田、あの会社に飛び込むぞ。
受付で、今年も、蝉が鳴いてますねって声かけて見ろ。
はいッ。
吉田と申します。よろしくお願いします。
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【お礼】いかがでしたか、投稿楽しんでいただけましたでしょうか。訪問ありがとうございました。
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