【2.ノッポ君】駅裏 雀荘物語
今日からバイトすることになった駅裏の雀荘。
さっき知り合ったばかりの、ミチコと名乗った先輩と、
二人でタバコを吸いながら、少し話をした。
吸っているタバコの銘柄、どこの学校、ふーん、そうなんだぁ。
ほんの2~3分。
会話は、ごく普通の高校生のものだった。
ミチコ先輩は、煙が目に染みたのか、目をパチパチと瞬きさせて、タバコを揉み消して、
さ、行こっか、と先に階段を下り始めた。
ここは3階、ロッカールーム前の灰皿置き場。
これから暫く、この場所でさまざまなドラマが繰り広げられる事になる。
そして、俺にとっても忘れられない思い出の場所となるのだ。
ミチコ先輩の後に続いて、階段を下りて、途中2階の雀荘の方へ挨拶しておいた。
扉を押すと、
カラン、コローンと音がする。
昨日面接をしてくれたあの課長さんが店番をしていて、
おう、来たか。
一階で、みんなに挨拶を済ませたら、上がって来てくれ、俺と交代だ。
ミチコッ、そいつにタイムカードの場所教えてやってくれッ。
カードは、もう作ってあるから。
ハーイッ/
相変わらず大きな声で、閉まり掛けの扉に向かって、もう階段を下りていく俺たち二人の背中に言葉を投げていた。
今日は金曜日、学校帰りに16時からのシフトに入るには、少々キツイ。
午後の授業が終わるのは15:20。
スグに学校を出てもここへ着くのはギリギリ、30分ほど掛かる。
俺の通う高校は、わりと新設校で立地があまりよろしくない。
その上、学校の周辺は開発計画の途中だったせいもあり、田舎感をたっぷりと残していた。
周りの学校ではバイク通学が許されていたのに、新設校の悲しい性かバイク通学は禁止だった。
だから、俺もバイクは家に置いて、自転車でせっせと通学していたのだ。
何度かバイクで行ったこともあるが、先生に見つかったり、ミニパトに駐車違反を取られたりと、割が合わないからバイク通学は諦めていた。
そして今日、雀荘ビルに到着したのが15:48分頃だったから、やはり30分ほど掛かったことになる。
1階の喫茶店へ下りて行くと、同じユニフォームが数人働いていた。
ミチコ先輩に、速く速く、と促され、
ガチャン、とタイムカードに16:00ピッタリの文字が印字された。
遅れたらアウトだからね。1分でもマイナス15分。
きついよねー。
あ、はい、気を付けます。
俺のカードを取り上げて、後ろにあるカードホルダーに差し込んで、
ここが、君の場所ね、覚えて置いて。
その後、ホールのみんなを順番に、紹介してくれて、
午前中の人とは、夕方4時、5時で交代となる事が分かった。
喫茶の方には、5~6人の女の人たちがシフトを組んで勤務していた。
壁に、1か月間のシフト表が貼ってあった。
大学生の男も一人いた。
そして、キッチンには、調理担当として男の人2名がいて交代で勤務している事も分かった。
今日の担当は、馬場さん。
アイパーで、がっちりと固めたリーゼントがトレードマークの人だった。
名前は、バンバと読むらしいが、どうもそう呼ばれるのが好きじゃないらしく、キヨシという名前で呼べと言われた。
ミチコ先輩が、俺の事をタツヤだと紹介してくれたが、
名字は何だと聞かれて、野上ですと答えると、
うーん、タツヤの方が良いなと言われた。
学校でも、タツヤと呼ばれているから、それで良かった。
そのキヨシさんが、ミチコ先輩に、
ミッチャン、これ2階へ持って行ってと、コーヒー4つとサンドイッチ4つを指さした。
ハーイ、
金曜日は、出張サラリーマン達の利用が多いらしく、客の入りは早いとのことだった。
ミチコ先輩は、丸い銀盆を二つ用意して、一つにはコーヒーを、もう一つにはサンドイッチをそれぞれ4つ乗せて、
じゃ、ノッポ君、手伝って。
はッ、ノッポ君。。
そう、君、背が高いから、
いいでしょう、ノッポ君で。
ハハハ、ノッポ君か、それいいじゃん。
キヨシさんも、しっくりと納得出来たみたいで、
その日から俺は、1階ではノッポか、ノッポ君と呼ばれることになった。
2階へ上がりながら、ミチコ先輩は、
私の事も、ミチコって呼び捨てでいいよ。
みんなには、ミッチャンって呼ばれてるけど、ノッポ君の方が一コ上だから、、
えッ、ミッチャン、高一なの?
タメか、一つ上かな、と思っていたから驚いて、思わずミッチャンって呼んでしまった。
でも、おかげで、その瞬間からミッチャンと呼べるようになった。
しかし、正直、ビックリだった。
口紅をしているし、ミニスカートから伸びた足も、凄く大人っぽく見える、
高一かぁ。
2階へサンドイッチセットを全部運び終えると、課長さんが、野上は残れよ、と声を掛けてきた。
その声に被せるように、ミッチャンが、
彼は、今日からノッポ君だからねー、とちょっと舌を出して、
頑張ってねー、と下りて行った。
なんだお前、もうあだ名が出来たのか、、
まあ良いさ、みんなと仲良くやってもらった方がいい。
なんせ、ここに来るバイトは、なぜかみんなすぐに辞めッちまう。
頑張ってくれよ、野上ッ。
肩をたたかれて、ホッとした。
この強面の課長さんに、ノッポ君って呼ばれるのだけは勘弁してほしかったから。
よーし、野上。
簡単に、仕事の流れを説明するからしっかり覚えてくれ。
まず、客が来たら、この受付表に名前を書いてもらうんだ。
ただし、常連さんは俺たちの方で名前書くからな。
その為には、早く顔と名前を覚えろよ。
それから、お茶の出し方、ゲーム代の精算の仕方、テーブルの片付け方、牌の拭き方、、
一通り教えてくれた。
バイトは初めてじゃ無いから、教わったことを片っ端からメモに書き留めた。
その日は、課長の他にもう一人、働いている人がいた。
節子さんだ。
何歳なのか、さっぱり分からないが、おばさんじゃなかった、お婆さんだった。
何でも、40年以上働いていると言っていたから、ヌシの様な存在かもしれない。
課長さんも、分からない事があったら節子さんに教えてもらえと言っていたから、やはりヌシだと思った。
雀荘の方は、その時点で4卓ほどが埋まっており、
サラリーマン達が気勢を上げて、
よーし、リーチだ!! 勝負。
カーッ、また満州かよ、、
どうする、もう半荘(はんちゃん)やるか、なんて、
雀荘を思わせる会話が飛び交っていた。
兄ちゃん、コーヒー4つな。
はじめての注文に、どうしていいか分からない俺を見て、
今度は、節子さんが、
食べ物の注文が入ったら、この伝票に書き込んで、
この内線を使って、下に連絡を入れる。
やってみて、
受話器を取ると、ピッピッ、ピッピッ、という音がして、
ガチャ、
ハーイ、どうぞ、とミッチャンの声がした。
あのー、コーヒーを4つお願いします。
りょうかーい、スグ届けるね。
電話の声がとても可愛く聞こえたのは、さっき下から見えていたフトモモのせいかもしれない。
つづく、、
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