【10.もう、全部、話しちゃうね。。】駅裏 雀荘物語

ノッポ、そこのラップ取ってくれる。

はい、これですか。

ありがと。

今、1階の喫茶カウンターに座って、キッチンの中にいるリョウ子さんを眺めている。

清潔感のある綺麗な指で、手際よくサンドウィッチをラップに包んで、

ノッポ、これ持って行ってくれる。

ぅいース。

ミッチャンの着替えを待っている間にと、リョウ子さんが夜食を作ってくれたのだ。

ゴメーン、お待たせと、ミッチャンが私服に着替えて降りてきた。

薄めの赤のミニ、前後左右、どの位置から見ても、

必ず、もう一度、

二度見してしまうほど艶々(つやつや)しい、ホワイトツイン。

息を止メ、瞬きをするなッ、と命令が聞こえるのは、

このような神々(こうごう)しい光景を目にした生き物のみが感ずる刹那なのかもしれない。

行こっか、

OK-、

正気に戻って、カウンターから降りて、三人で外に出ると、

私、ちょっと寄る所がるから先行っててと、リョウ子さん。

オッケー、ハーイ。

じゃ、ノッポ、先行くよ。ビィーィーン。

今日も、風が気持ち良かった。

後から眺めるミッチャンのキュートミニの腰の曲線と双脚(ホワイトツイン)のシルエットは、

バイクのスピードをギューン↑と上げたくなるほどだった。

アパートの近くの自販機の前でバイクを止めて、

ノッポ、何にする?

あ、いいよ、自分で買うから。

大丈夫、今夜のお礼って言うか、この前もおごってもらったから、

うーん、じゃ、コーラにしよっかな。

ピコピコピコピコ、ぴーッ。7、7、7、8

当たんないね、この数字。

俺、2回当たったことあるよ、それ。

えッーーーッ。

これ、当たるのー。

そっかー、当たるのかー。

ミチコ、運が無いのかなー。

ボソボソ呟きながら、プシューッと、カルピスソーダの缶を開けて、

プハーッと、小さく美味しそうに飲んで、

こちらを、ちょこっと見て、首をかしげて、

飲む?

どっきーんッ!

スグ横を歩いてる腕が触れそうな距離から、

右手で、缶を差し出してくれた。

完全に隙(スキ)を突かれ、狼狽(うろた)えた。

あわ、いいや、コーラあるから。

バカかお前は、バカかお前は、バカかお前は、バカかお前は、

耳の中で、強烈な後悔の声が木霊(こだま)している。

バカタレーーッ。

今のは、今世紀最大級、富士山、エベレスト級のチャンース!

だったろ、だったろ、だったろ、今のは、、

早く、飲めよ、そのコーラ、、自分で、

ぐすん、

心の中の自分が静かに嗚咽した。

グビグビグビーッ、

上を向いて、いつもより、多めの一口を飲んだ。

あー、出来る事なら、もう一度、神よ、俺にチャンスをー!

ガチャ、

アパートの鍵を開けるのと同時に、

どうぞー、と優しい口調で促された。

今、このアパートには、16才の蒸れッ蒸れの男女が二人っきり。

グッ、いかん、来る。

落ち着け、それ以上考えるなッ。

ルート2、ルート3、、、

聖徳太子、ヘモグロビン、、

ドンキーコング、泣くよウグイス、ナポリタン、

何してんの?

早く、入ればー、、

あぁ、おじゃましまーす。

女の子の部屋は、玄関からすでに凄い。

足を一歩踏み入れると、

今度は、漂う甘ーい香り、

これは、、ーー、

鼻いっぱいで吸い取って、肺にたっぷりと送る。

逃がさず、漏らさず、味わって、

今度は、空気だけをすーっと細く吐き出して、

胸に残った香の方は、

お土産に持って帰える。よし、ちゃんと出来た様だ。

息を止めて、キョロキョロ見ていると、

なーに、そんなに見ないでよー、ノッポー。

あ、いや、女の子の部屋が、珍しくって、

俺、男兄弟だから、、

そっか、お兄さんだっけ、、

ぅ、うん。

そんな、取り留めもない話をしていると、リョウ子さんが到着した。

ゴメン、待った。

お腹減ったねー、ノッポ、サンドウィッチ出してよ。

あ、はい。

それから、三人でいろんな話をした。

喫茶の方で働いている女子の話が中心で、

やはり、ロッカールーム=更衣室、があるせいか、

身体的特徴の話が多かった。

一応、ここに血気盛んな高二男子がいるのだが、

そんな事を忘れているのではないかと思われるぐらい話の内容は濃かった。

パンティーにVブイカット、TにO、脱毛、永久、Cだの、Bだの、次だねきっと、、

凄い、ボキャのオンパレードだった。

あ、ごめんごめん、ノッポ、刺激強すぎた?

と、リョウ子さんが聞いてくれたけど、

ワザと、ですよね、リョウ子さん。

で、ノッポはミチコに何か聞けたの?

はい、大体のところは。

そう、じゃ私にも聞かせてもらおうかなー。

突然休んで、元気ないから、心配してたんだからね。

ゴメンナサイ、リョウ子さん。

それから、ミッチャンは、俺に話してくれたのと、ほぼ同じ話をリョウ子さんにも聞かせた。

そして、その後、随分思案しながら、ゆっくりと、

お母さんの自殺の原因を話しはじめた。

理由は、やはり、男関係だった。

20歳の時に、お姉さんが生まれて、

スグにその男とは離婚して、

他の男と暮らして、

私が、生まれたのが、16年前で、お姉ちゃんが7歳の時。

それが、私の最初のお父さん。

お姉ちゃんのお父さんの事は全く知らない。

で、その最初のお父さんが居なくなったのは、

私が、2歳ぐらいだったらしいの。

そのあと、4歳の頃に、新しいお父さんがやって来て、

3年前ぐらい前まで、いたかな。

この辺りまで聞いている途中、途中、

何度か、リョウ子さんが、確認するように、

まって、待って、じゃなに、

ミチコのお父さんは、その最初の人で、良く知らないうちに居なくなったってこと?

ミッチャンは、うん、と頷いて、

二人目のお父さんがいなくなったのが、三年前、って、

お母さんが、一度目に自殺未遂したっていう、

そう、その時は、お父さんの浮気が原因だったの。

それがバレて、どっかに行っちゃったんだよ、ホント、最低だよ。

ミチコは、ずっと嫌いだったけど、あんな奴。

酒臭いし、お風呂も覗かれたし、

えーッ、うっそー、あー嫌だ。

リョウ子さんが生理的な嫌悪感を見せて、

サイテーだね、その男。

でも、いるんだねー、そんなやつが世の中に。

俺も、頭フル回転で、話について行こうとしたけど、

風呂を覗いた、覗かれた、これが、頭から離れない。

何だよ、その男はッ、と初めて声に出してしまった。

なにー、ノッポー、どうしたの、どこに喰いついてんのよ、バーカ。

お姉さんは、どうしてたの?

お姉ちゃんは、高校卒業して仕事するって家を出てった。

それからは、ぜんぜん会ってない。

それで、お母さんが入院している間、

親戚の家に預けられたんだけど、凄く嫌で、

ずっと不良してた。

リョウ子さんの、たたみかけるような質問のお陰で、大まかなところは理解ができた。

俺は、ただ聞いていただけで、

何度か、そうなんだ、と呟いたけど、口は挟めなかった。

ただ、話の途中、ミッチャンが年数を指で折って数えていたのがとても印象的だった。

ここまで聞いただけでも、普通の経験じゃない。

こんな複雑な話、俺の周りには全くなかった。

その後も、話は続いて、

今回の、お母さんが自殺って話になって、

お母さん、退院してからスグ働き出して、

水商売やってたから、また、別の彼氏が出来て、

その人と一緒に住んでいたの。

で、おとといの夜に、また自分で切ったんじゃないの、、

ミッチャンは、凄く嫌そうに呆れ返ったように冷たく言い放った。

お母さん、きっとまた浮気されたんだと思う、、

ちょっと、待って、ミチコ、、

ミチコは、どこに住んでたのその間。

ずっと、親戚の家にいたの?

ううん、最初はちょっとダケ住んだけど、

なんか、嫌で、

友達の家とか、不良のたまり場みたいなところにも、ちょっと居たかな。

なるほどねー、ミチコ大変だったんだね、、

だけど、最後のところだけ、ちょっと変、おかしくなーい。

口ぶりから、リョウ子さんは、何かを感じ取っているらしかった。

だって、ミチコがバイトに来たのは、丁度1年前くらいだよ。

中三、だったよね。

その時から、ここに住んでたよねー。

ここの家賃とか、誰が払ってんの?

、、、

確かに、そう言われればそうだった。

このアパートだって、そんなに安くないだろうし、バイト代だってしれている。

あ、ゴメン、詮索つもりじゃなかったんだけど、つい、

ミチコ、ごめんね。

ううん、大丈夫。

リョウ子さん、ありがとう。ノッポもね。

もう、全部、話しちゃうね。。

そうなの、ここの家賃とかは、お父さんが払ってくれているの。

でも、最初のお父さんじゃなくて、本当のお父さん。

えー、

えー、

二人して同時に驚いた。

ちょっと、待って。

ミチコが、ちっちゃい時に居なくなった人だよね、最初のお父さんは。

その人じゃ無くて、別の、本当のお父さん。

なんだか良く分からないけど、ミチコ、知ってるの、本当のお父さんの事。

、、うん。

だれ、なの?

リョウ子さんは、知っている人かも、、、

えーーーッ、

どうして、私がミチコの本当のお父さんを知っている分け、、

なにそれッ、

ミチコ、ちゃんと話してよー。

お父さん、会社の人だから、

え、会社って、今のバイトの?

うん、山城大蔵さんって言う人。

誰、それ?

リョウ子さん、知らないかー。

あッ、

それ、俺、分かるかも。

なにー、ノッポ、なんであんたが分かるのよ。

だって、リョウ子さん、部長ですよ、オットセイの、

あの人の名前、山城善三って、

それに、三男坊で、同期だって、鬼瓦課長が言ってましよ。

え、じゃ、大蔵って言うのは、

会長さんの方の山城さん、

会長さん、が、本当のお父さん?

って、言うことは、部長が、お兄さんーッ、

えーーッ/、

えーーーーッ/、

えーーーーーーーーッ/、

えーーーーーーーーーーーーーーーッ、

ダメだ、ノッポ、お水ちょうだい。

つづく、、

★★★★★★★★★★★★

【予告報】

驚きが頂点に達して、ぐったりとなってしまったリョウ子とノッポ。

この後、更なるミチコの告白ストーリーは続く、そして、ノッポの恋の行方は如何に、、

★★★★★★★★★★★★

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