【後半報】タイで初体験、ジビエに、シビレた!
田舎の夜が暗いのはどこでも一緒だ。
ここタイの田舎も同じで、家と家の間隔は広く街灯がほとんど無い。
夜中ともなれば、月明かりか懐中電灯が無ければ外を歩けない。
普段の生活も朝型で夜が早く、家から洩れる明かりも僅かだった。
しかし、今夜の様なイベントのある日は特別だった。
夕日が西空をオレンジ色に染め上げ、ヤシの木のシルエットが長く家の壁まで伸びている。
その夕日が沈む頃に、裸電球のフィラメントに明かりが灯り出す。
色は、蝋燭(そうろく)色で、夕日のオレンジ色を引き継ぐ様に辺りを照らしていく。
そして、今度は壁にぼんやりと人や犬の歩く影を映し出して情緒ある田舎の雰囲気を演出してくれるのだ。
よし、このぐらいで良いだろう。金網係の男が声を出した。
どうやら、闘鶏リングが出来上がったようだ。
バタバタバタッ、クッワッ、クッワッ、クッワッー、、
興奮度を増しバタバタと暴れる2羽の足に鋭い刃が装着された。
戦いは、もうすぐ始まるのだ。
リングを取り囲んだ大人たちの緊張感が伝わってくる。
頼むぜ、セブン!
負けるなよ、タイガー!
先着のセブンをチャンプのタイガーが睨みつける。
しかし、セブンも負けていない。
睨み返して、喉を鳴らして、気合を入れる。
コッコッコッコッ、なめるなよーッ!
いつまでも、チャンピオンの座にいられると思うなよと、一際高く鳴き声を上げた!
バタバタッ、カッカッ、闘志を剥き出しにして羽と刃を動かしている。
セブンの前評判は高く、最近になって強烈に頭角を現して来た若手のホープと期待されている。
よーし、俺はセブンに1,000バーツだ。俺も乗った、1500バーツだ。
ハハハ、何を言っている。まだセブンじゃ無理だぜ。タイガーに5,000バーツだ。
集まった大人たちは、それぞれの思惑を乗せて世話役に金を渡している。
闘鶏、だたのエンターテイメントで終わる分けが無かった。
アジア各国で行われる闘鶏は、古くから続くギャンブルの一つとして有名だ。
(日本の軍鶏(しゃも)も元はタイから持ち込まれて賭博用に飼育したものがルーツだ。)
それに、かなりの額の金も動くのだ。
ちなみに、タイでは賭け事を厳しく禁止しており公営ギャンブルが一切無い。
唯一許されているのは、宝くじのみとなっている。
理由は簡単で、庶民が身を亡ぼし国が衰退するからとなっている。
事実、私はその事を裏付ける出来事に遭遇したことがある。
ある日、知り合いのタイ人からバス代を貸して欲しいと電話が掛かってきた。
分けを聞くと、隣国カンボジアのカジノへ行き、すってんてんになったらしい。
行くときは自分の車で行ったらしいが、負けが込んで車を売ってしまったそうである。
こんな話がざらにあると言うから、やはりタイにはギャンブルが必要ないと人々も言っているのだ。
しかし、人の欲を止めるのは、なかなかに難しいものなのだ。
例え、公営ギャンブルが無くとも、闇ではさまざまな賭け事が存在している。
サイコロ、トランプ、おいちょかぶ。
最近では、サッカーの試合にも掛けているし、闇ナンバーズ(1時間に1回開催)の様なものもある。
面白いところでは、コオロギ、カマキリ、蜘蛛も戦わせており、アジアの賭博文化そのものと言ってい良いだろう。
これまた経験談だが、タイ人と付き合いが長くなると、長期計画をすることが極めて苦手な人達だと分かってくる。
貯蓄=将来のためという考えが乏しく、いつも何とかなると考えている人が多いのだ。
故に唯一の財産である土地家屋を担保に借金を抱え、大変なことになる家族も多いと聞く。
しかし、私の見る限りタイ人の性格だけが問題ではなさそうなのである。
問題の根底には、教育水準の低さと地域格差、産業構造が大きく起因していると思われる。
そして、何より大きな課題は、痩せた土地しかない農村部の貧困問題だとも言える。
おっと、話が逸れた。グイッと本題に戻そう。
★★
夜の帳が下りる前だった。
突如、タイガーとセブンがリングに解き放たれた。
バサバサッ、シャー、シャー、ザッ。
最初の攻撃だった。
どちらかの放った一閃が、肉を切り裂いたような音を出した。
バサッ、
バサッ、
二羽が、飛び上がって攻撃し、舞い降りて距離を取って一息入れた。
どっちだ。
あーッ、タイガーが血を出している。
それも、タラリと首の辺りに鮮血が見て取れる。
二羽に装着されたナイフの刃が、キラッキラと光りに反射する。
おーッ、セブン!
反撃だーッ、タイガー!
それぞれの側から歓声が上がる。
睨み合いが続いて、一旦落ち着き、静寂が次の一撃を待つ。
嘴(くちばし)を何度か前後に動かし、タイガーが仕掛けた。
バタバタ、シュー、飛び上がり際(ぎわ)だった。
タイガーが放った前蹴りがセブンを斬った。
バサバサバサっと数回、飛び込んでは蹴り上げ、着地しては蹴り上げが続き、鮮血が飛ぶ!
どうやら、終盤を迎えている様だ。
次の一撃が最後になる。
、、、観客たちも固唾を飲んで見守っている。
バシッ!
タイガーの必殺の一撃が決まった!!
コッコッコッ、コッコ、コ~ッ、セブンは後ろ姿を見せて戦意を喪失した様だ。
オーッ、タイガーだ!
タイガーが勝ったぞ!!
ありがとうタイガー!!!!
やっぱりお前が一番だ!!!!
タイガー、タイガー、タイガー、、、
勝利のコールが始まって、皆が踊り出す。
試合後の罵声と歓声!
それぞれの思いが交錯した声が聞こえる。
暫くすると、キンカオ(ご飯をお食べよ)と女たちが声を掛ける。
その声を皮切りに、宴会が始まった。
日本人、お前も飲めよと負けた一人が俺の差し入れたビールを注いでくれた。
朝のオヤジさんはどうだったのか。
タイガーに掛けると言っていたから勝っているだろう。
既に周りは完全な夜になっている。
再び女たちが、キンカオ、キンカオ(ご飯をお食べよ)、と声を掛け合う。
音楽がタイの演歌(ルクトゥーン)に変わっている。
女たちは、指を反らせてタイのダンスを踊り出した♪
お爺も笑顔でダンスを踊る。
子供も真似てダンスを踊る。
そして、俺も釣られてダンスを踊った。
タイの初体験、闘鶏の夜はこうして過ぎて行ったのであった。
★★★
そうそう、ジビエの話をしておこう。
今宵の戦士、タイガーとセブンは共に良く戦った。
しかし、激戦が故に傷もまた深かった。
皆で感謝しよう!
命の限りを尽くして戦ってくれたタイガーに!
そして、セブンに!
乾杯!
カンパーイ! セブンに!
タイガーに!
乾杯に続いて、料理係のオバサンが小さなタライに入った赤黒い血の色をした肉料理を持って来た。
肉の上には、真っ赤になる程の唐辛子と緑のパクチーがアクセントに散らしてあった。
隣に座ったオヤジが声を掛けてくれた。
それッ、日本人。お前も食ってやってくれ!
タイガーに!
おぉ、セブンに!
クー、シビれるぜタイガーセブン!
★★★
【おまけ】
如何であったろうか。
少しは、戦士たちの頑張りが伝わっただろうか。
私は、この体験を決して忘れはしない。
そして、一噛み一噛みを大切にする事も忘れないようにしている。
セブンに!
★★★
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