お父さんの夏、思い出のBBQ
子供達には、辛い日々が続いてる。
桜は近所の公園だったし、ゴールデンウィークは田舎にも帰れず仕舞いで日々を過ごしてしまった。
夏休みには、何とか去年行った川遊びに連れてやりたいと考えている。
去年は、昼のご飯に飯盒炊爨(はんごうすいさん)とBBQを試みたのだった。
薪を広い、石を組み上げ、父としての威厳を子供達に見せつける晴れ舞台となる日だった。
茂みに入り込み、蜘蛛の巣をかき分け、水を汲む。
子供達には、お父さん大丈夫と声を掛けられたが、
な、何を言っている。お父さんは凄いんだぞと、更に奥へと分け入った。
痛ッ、切ったか? ベロでちょっとナメナメして、傷口を見る。
大丈夫か、グッとつまんで少し血が滲んでいる箇所を5秒程眺めた。
私は、都会のサラリーマン。基本、藪の中は苦手だ。
でも、このぐらい痛くない痛くない、子供達の為だ。
悪戦苦闘の末、何とか茂みから運び出した燃えそうな草木を一旦下へ置き、
丸~く積み上げた石の真ん中に敷き入れた。
ザッザッ、メタルマッチで着火を試みる。
再度、ザッザッ、、、
んー、やはり着火しない。
なんとか良いところを見せようと購入した本格派アウトドア用着火グッズだったが、使い方が悪いのか湿っているのか、なかなか火が点かない。
私の手元を見つめる子供たちが、みるみる不安そうな顔つきに変わる。ざわッ、
ちょっと待ってろ。無言で車に駆け戻り、これだッ。
念のためにと購入しておいたボンベ式ガスバーナーを取り出して、ヴァー、と強制的に着火した。
この時ばかりは、サラリーマンとして時代を生き抜いてきた経験を褒めたかった。
部下には口癖のように言っている。「いいか、常に状況を先回りして読まなければ優秀な営業マンとは言えないゾ」。
出発前日、今週降っていた雨の事を思い出し、現地の草木が雨に濡れているかもしれないと先読みして、ボンベ式ガスバーナーをこっそりと購入して置いたのだった。
我ながら、鋭い読みだったと自己満足に浸って火を眺めていると、
息子が吐き捨てるように、そんな便利なものがるなら最初から出せばいいのにと、都会っ子独特の合理的な意見を出して来た。
一瞬、反論してやろうと思ったが、コイツは部下じゃない。バーナー缶を握る手に圧を掛けて自分を落ち着かせた。
しかし、試練は続く。
下の娘が、お腹減ったよー、まだ~とぐずり出したのだ。
言っておくが、お父さんはお前たちの為に一生懸命になって、、
見よ。この滝汗の量を、、
まあ、良い。これも、子供たちの為なのだ。
もう少しだ頑張れ俺と、自分を鼓舞し再び作業に取り掛かろうとした時、
小バカにしたような嫁の口が、への字になったのを見逃しはしなかった。
顔はお出かけ仕様の厚塗りファンデとSPF100+と書かれた日焼け止めを重ね塗りしているから、おー真っ白になっている。
加えて、大き目のつばのチューリップハットとサングラスまで、、
それは、まるで白菜に赤いかまぼこをあしらった様な出で立ちだった。
これは、何とういう生き物なんだろうか。
いかん、いかん、この生命体を愛したのは、この俺だった。
気を取り直して、心で唸っておいた。
今に見ておれよ。最高のBBQを披露してくれるわッ。
よし、飯は炊き上がったようだ。
はめた軍手でアツアツと飯盒をひっくり返して、木の棒でお尻をポンポンと叩き、蓋を開けると、
ほわ~ん。
白色の炊きあがりの湯気と、プ~ンと芳しいおこげの匂いが立ち込めた。
おー、これは素晴らしい。
割と適当な目分量で測った水の量が良かったのか、仕上がりは抜群だった。
その銀に輝くご飯の出来に、息子と娘は興味津々。
そうだ。
子供なら、そう言う目と顔で驚かなければならない。
勝ち誇ったように、どうだ見たかと胸を反らせて、まだ食うなよ。
今、おかずの肉を焼いてやる。
前日に仕込んだ肉と野菜をホームセンターで買ったBBQ用の網にのせる。
こちらは、問題なく火が点いて、あっという間に最大火力。
割と張り込んだ肉のせいで油が垂れまくって、炭は烈火のごとくゴーゴー、ボーボー、ゴーゴーと音を立てて、あっという間に肉を黒い塊へと変化させていく。
そら、急げ、子供達よ。もう焼けている。
えー、もう?
お箸は、どこ?
お皿は、どこ?
コラーッ、嫁、何を見ている。手伝えよ。
今日は、見学会じゃないんだぞ。
ビリッ、バリッ、
紙皿のパッケージを慌てて破り、数枚が風に飛ばされてむなしく川に着水する。
お父さん、流れて行ったよ、、
うーん、大丈夫だ、放って置け。
手に残った紙皿の方に黒片と化した肉の塊を置くと、息子と娘が膝を抱えて見つめている。
ジーー、お父さん、これ、食べられるの。
ぐ、何を言う~ッ。
飯盒炊爨のBBQと言えばウェルダン(よく焼き)が相場と決まっている。
飛び掛かって食いなさい。いろいろ問うてはいけない。ケンカだ、取り合いだ。
今日は、それがBBQの醍醐味だと教えようか、、
それでも、子供達には愛を感じる。いろいろ言うものの、食べてくれるからだ。
娘など、ニッコリ笑って、お父さん、美味しいね。
そう、お父さんはその一言でまた頑張ろうと復活できるのだ。
ちょっと疼(うず)き出している切り傷だってへっちゃらになってしまうのだ。
そうか、良かったな。また来ような。
しかし、
次回来る時は、この白菜仮面を漬物石の下に置いてこようと誓うのであった。
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