曲がり角の女
彼女には、これまで2度会ったことがある。
1度目は、7歳か、8歳の頃だったと思う。
放課後、友達の川本君の家へ遊びに行き、夕方5時ぐらいにバイバイまた明日~と告げて、彼の家を後にした。
外に出ると、周りは薄暗くなっていて、頬にあたる風が冷たかった。
目を細めて、首を引っ込め、ミトンの手袋で両手をパンパンとはじきながら路地のどぶ板の上をポンポンと跳ねるように家に向かって歩いていた。
チ・ヨ・コ・レ・イ・ト、、パ・イ・ナ・ツ・プ・ル、、
川本君の家から自宅までは200メートルばかり、小学校の前を通るルートだった。
そして、最後はこの美容院の角を左へ曲がれば家までは後少しだった。
バッ、
何かにぶつかって、あッと思って足が止まった。
今、確かに何かにぶつかった、、人の様だったが重さの感覚が無かった。
ただ、体の中を、すーと通って、背中側へ抜けて行ったのは分かった。
子供心に、ぞッとして、ゆっくりと、振り、返ってみた。
すると、どぶ板の無いところの上に女の人が立っていて、口だけで二ッと笑って左上に消えて行った。
二度目は、確か、26歳になった頃、秋になりかけの10月の昼下がりだったと記憶にある。
当時、私は長距離恋愛をしていて、2週間に一度お互いに行ったり来たりして逢瀬を重ねていた。
仕事は忙しかったが、とても楽しく過ごしていた。
販売営業は得意だったし成績もまずまず良かった。
しかし、営業の会社だ。基本給は低い。だからこそ、営業インセンティブを取る必要があった。
移動費と宿泊代、食事と遊びのデート代、毎回結構高くついた。
その週は私が彼女に会いに行く番で、新幹線を乗り継いで午後2時過ぎに高崎駅に到着したのだった。
この駅に来るのもこれで5度目。新幹線の扉が毎回ピタリと定位置で開くことに驚いて、プラットフォームに降り立った。
この駅で降りる人は割と多い。少し人の流れをやり過ごして、ほぼ最後になってから改札へ向かった。
黒の大きめのボストンバックを肩に掛けて右手で添えて抱え持ち、最後の階段を降りて右へ曲がった時だった。
バッ、
急に、ボストンバッグが引っかかったようにグッと後ろへ重くなった。
あッ。
一瞬にして、記憶が蘇った。
あの女だ。子供の頃に美容院の前で体の中を抜けて行った時と同じだ。間違いない。
周りの人の流れを気にしながら壁際によけて、後ろを振り返った。
いない。
階段の方へ数歩戻って、首だけで階段を見上げると、、
いたッ。
今回も、その女は二ッと口だけで笑って、階段の中に吸い込まれるように消えてしまった。
一体、なんなんだ。もう、20年ぐらい時間が経ったのに、、、
しばらくの間、女の消えた階段を見つめて気配を探ったが、もう何も見えなかった。
諦めて、改札へと振り返ったその時だった。
すぅーっと、二本の腕が、俺の腰の辺りから背中へ回って、
身体がピタリとくっついて来て、下から見上げられた。
ゾクっと、背中側に冷たい感触の鳥肌が立つのが分かった。
早かったね。
その手は、ずっと待っていたのか冷え切った彼女のものだった。
お、おう、恭子か、、おまたせ。
あの女の顔が、恭子に重なって見えてしまった。
★★★
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