ルーティーン【夜の報、夜の後の報】
夜、仕事を終えたサラリーマンに掛ける言葉があるとすれば、「お疲れ様でした」これに尽きるだろう。
事務所を出る時に、この言葉を聞けば、どんな場合も一応の区切りは付けられる。
私の場合、最後の一人になる事も多々あるが、その時だって、お疲れ様でした俺、と一声掛けるのが退社時のルーティーンとなっている。
この後、帰宅して、ラッキーにも良質な嫁がいたなら、今日もお疲れさまでした「あ・な・た」と優しいトーンのルーティーンにキッスだって混ざる日があるかもしれない。
仮に、こんなルーティーンが本当に待っているなら、さぞかし豊かな人生を送れるに違いないと夢見る現実はどうなっているのだろうか。
今回は、その辺りの考察を深めてルーティーンを締めくくってみたい。
【夜】
サラリーマンにとっての夜、それは如何にあるべきなのだろうか。
ある者は、一日の疲れを癒すであろうし、またある者は、明日への英気を養うのかもしれない。
いずれにしても、ネクタイを外して酒を飲むという行為から夜のルーティーンは始まる筈だ。
だが、飲酒という行為は同じでも、カレンダーの示す日によって財布の残高が違うから、飲み方には多少の違いが出る。
財布に万札が無くとも千円札を数枚確認できる状況なら、何とか居酒屋は見繕う事が出来るだろう。
この場合は、ほろ酔いセットを中心にいくつかローテに組んで、幾許(いくばく)かの単品をも楽しめるファイナンス状況の筈だ。
しかし、財布の残りが寂しい時は、公園の椅子がテーブルになる事もある。
先客がある場合などは、コンビニの看板がテーブルになっているグループもたまに見かける。
それでも、雨さえ降らなければ場所などどこでも構わない。
皆で、プシュッと缶ビールや酎ハイで「お疲れッ」と声を掛け合えば、後はつまみのルーティーンがまた楽しい。
さきイカ、柿ピー、ベビースター、この辺りのコンビニローテを挙手で決めれば、一人2本までなと酔う前からブレーキを掛けて来るのはご愛嬌だろう。
それでも、時折混じるホタテの貝柱を、お先に一つと摘まみ上げれば1ランク上の高級感でビールが旨い!
ま、季節にさえ注意を払えばさしたる問題はないだろう。
さて、ここまで、朝、昼、夜、サラリーマンの日常に隠れたルーティーンを見てきたが、まあ面白い。
では、お待ちかねの、最後のルーティーンを考察してみようじゃないか。
【夜の後】
ただいまー。
お帰りなさい。
おぉ、今日も少し甘めの声で良い感じじゃないか。
お食事とお風呂、どちらになさいますか?
それとも、ビールになさいますか?
これは、昭和時代の奥さんのお返事ルーティーンだ。
最近では、TVの中ぐらいでしか見かけなくなった。絶滅したのかもしれない。
ちなみにだが、この頃は、お見合い結婚する方が多かったから、この様なルーティーンが存在したのではないかと私は考察している。
さてさて、奥さんにカバンを渡した夫は、食事を先にする旨を伝え、着替えを手伝ってもらいながら会社での出来事などを話しかける。
食卓に着くとビールが出て来て、はい、どうぞ。
今日は、肉じゃがを作りましたのよと妻の言葉にも愛を感じて夕食が楽しい。
当然、風呂が沸かしてあり、食後に汗を流して下着を変えてさっぱりとさせてもらった。
あー、スッキリした。
ソファーに座ってスポーツニュースで野球結果を確認しながらタバコを一服やって、スー、ハー。
眼前には、よく気の利く年下のかわいい嫁が食卓の後片付けをしている。
その姿をチラリと見るのもまた趣のある夜のルーティーンと言ったところだろうか。
酒が好きなら、もう一杯飲みたいところだ。
お気に入りのグラスをサイドボードから取り出して水割りを楽しむ。
これもまた、立派なルーティーンの一つだし、お前も一杯どうだいと嫁に声を掛けるのも愛情のルーティーンだ。
実は、このルーティーン、ただの決まり文句ではない。
今晩どうだ、の合図が含まれているルーティーンで、少し色気のあるものなのだ。
実は、この手のルーティーンを愛してやまない夫(おっと)連中は、今一つ合図を持っており、
もう片付いたのか、そろそろ風呂に入ってゆっくりしてきなさい、などと優しい声を掛けるのだ。
これとて、その実、今夜だぞと、念押しの半ギラルーティーンで、もう後には引けない状態になっている証(あかし)なのだ。
その辺り、嫁の方も心得たもので、ええ、そうさせていただこうかしらと返事を打って、OKよ、あなた、と含ませるのであった。
後は、風呂場に向かう嫁の後ろ姿に、うおーッと小さく雄叫びを上げて、そわそわと水割りセットを自分で片付ける夫はやる気満々だ。
手合わせをする以上、全身全霊を持って挑むべし。心掛けとしては、男の基本だ。
ただ、肝心の行為は各々の性格が出るのから千差万別。
私の知り合いなどは、OKが出た後に盛り上げ効果を狙ってか、嫁の入浴シーンを覗き見してみようとウロウロ・ドキドキと気持ち昂らせて行くらしいのだ。
一言で言えば変態、二言で言えば嫌らしいやつ、三言で言えば嫁が大好きな夫、なのである。
しかし、ここで本当に覗き見する奴は晩婚型の夫で、中堅夫婦の夫はもうしない。
熟練夫婦の夫が未だ覗くようなら、、、
止めておこう、これ以上の想像は失礼だ。
さて、夜のルーティーンも佳境に入って来たようだ。
ここからは、更に個性豊かな愛のルーティーンが執り行われることになる。
ベッドか、布団かの違いはあれど、寝屋でのルーティーンは誠(まっこと)奥が深い。
男女に攻守が入れ替わり、十人十色で趣味嗜好もみな違う。
一つ確認しておこう。
ルーティーンとは、基本攻め手がこんな風にするのが好きだと考える手法の事であり、守り手のルーティーンなどは存在しないと考えるのが正しい。
しかし、年を重ねる毎にこの意見に疑念が生じてくる。本当にそうなんだろうか。
ああッ、あなた上手よ。
そこ、もう少し上よ。
ここか、、どうだ。
ああッそう、良くってよ。
ならばこれは、どうだ。
私は基本、下から上に行くBのルーティーンが得意だ。さわさわさわッとやってからの、ブルブル~ン。
ああッ、もう少し、、
むむ、まだ来ぬか。
ならば、Aのルーティーンで、大きく擦って右左、こっちからも揉み上げてやろう。
フー、汗ばんできた。
上下に揺さ振り、前後に強く、パーンと時折刺激を加え、仕上げにスポット刺激を追加する。
これには、流石の嫁も、うッ、呻きに近い声が出る。
どうだ、気持ち良いか?
いいわ~、いいわ~、最高よ、あなた。
ちょっと待ってね、今度はこっちよ、向きを変えるわ、、
どさっ、どて、どろリ~ン。
なんです。勝手に上向いて、
ずーーんッ、
腕を伸ばして来た、、ん、どうしろと?
揉むのよ、震わせてよ、さっきの太ももみたいに、、
どうやら、これまで10年以上続けてきた足腰マッサージに、今夜から遂に、腕、という部位がルーティーンに加えられた瞬間であった。
あのー、すみません。
交代はしていただけるのでしょうか。
いいから、早くしてッ!
あ、ハイ。
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