【7.パジャマ姿のミチコが泣いていた。】駅裏 雀荘物語

今日は、バイト3日目の朝、

さっき、島崎課長に聞いた話は強烈だった。

山城部長=オットセイ、

頭の中に、その武勇伝が焼き付けられてしまった。

明日、学校に行ったら、必ず議題にあげて、みんなで話し合うつもりだ。

きっと、友人の中の勇士達が山城部長を超えるべく必ず挑戦してみるはずだ。

吉報を待とう。

さて、バイトの方は、何事も無く夕方の時間帯に入っていた。

今日は、日曜日、朝から打ちに来る連中もいたが、皆早上がりだ。

あまり遅くまで粘るグループはなく、大概が、一杯飲みに出かけてしまうとのことだった。

しかし、仕事とは別に、気になる事が起こっていた。

12時シフトのミッチャンの顔が昼以降も見えないのだった。

いつもなら、タバコ行こうよー、と誘いに来るのに、

今日は、未だ来ていない。

15時ごろに、キヨシさんに聞いてみたら、

今日は休むと、昼前に会社へ連絡があったそうだ。

そうなんだ、休みか。

たった二日しか会っていないのに、、

好きな娘に会えないような少し切ない感じが走った。

ヤバいな、ちょっと、イカれちゃったかなあー。

あ、ノッポ、

ちょっと待って、私も、上行くよ。

リョウ子さんが声を掛けてくれて、3階へ一服吸いに行った。

ねえ、ミチコのこと、聞いた。

ちょっと、心配なんだよね。

あの娘、この1年、休んだこと無かったんだよね。

見た目と違って、ちゃんとしてるんだからね、ミチコは。

今日もちゃんと電話して来たでしょ。

私、帰りに、家に寄って行くね。

ノッポも一緒に行ってくんない。

一人じゃさ、ね、いいでしょう。

あ、はい。構わないですけど。

よし、ミッチャンの顔が見られるかもしれない。

正直、ちょっと心が躍った。

今夜は雀荘の方に予約が無かったので、

たぶん、22時で終われると思います。

そ、

じゃ、上(あが)りは同じくらいの時間だから、下で待ってるよ。

あのー、

一つ聞いてもいいですか?

なにー。

キヨシさんは、行かないんですかね。

さっき聞いたら、行かないだとさ。

そうなんですかー、、

放っときゃいいんだよ、あんな奴。

どうせ、パチンコだろッ。

夕方5時上がりの時は、大体が新装開店直行便さ。

ミチコにも、もうヤメときなって言ってるんだよねー、

分かれてくれるといいんだけど、、

ま、そういう事だから。

よろしくね。

うー、やっぱり、リョウ子さんは美人だ。

タバコ吸って、話しているだけで緊張してしまう。

日曜日の夕方以降は、手前の部屋に2卓、奥に2卓の客がいた。

20時過ぎ、奥の2卓で大会をやっていた団体さんが、

表彰式を終えてお勘定して帰って行った。

残る2卓も、21時半を回った頃に引き上げていったので、

後片付けをして、22時前には、1階へ下りて行けた。

喫茶の方は、最後の客がギリギリまで粘っていたので、

終わるに終われない。

客の帰るのを待つ状態の喫茶店になっていた。

リョウ子さんは、カウンターに座って待っている俺に、

ゴメン、と手で詫びて、

客の方に向かい、そろそろ閉店ですと伝えているところだった。

客のお勘定を済また後、

もう一度、ゴメンとやって、

俺に、バイクのキーを放り投げて、表に持って来ておいてと言い残し、

急いで3階へ着替えをしに上がっていた。

その後ろ姿を見送りながら、

俺だけが知っている。

そう、あなたはケッコウ仮面と、冗談をつぶやいて、

俺は、自分のとリョウ子さんのバイクを2台並べて待っていた。

店の前を並んで出発したのは22時30分ぐらいだった。

リョウ子さんは、以前に一度、ミッチャンのアパートへ行ったことがあるらしく、

先頭で夜の街にバイクを走らせた。

15分ほど走ると、リョウ子さんがブレーキをかけて、止まった。

ここだよ。

とても、きれいな建物で、アパートでなく、○○ハイツと書いてあった。

2階の一番奥がミッチャンの部屋らしく、

リョウ子さんに連れられて、階段を上がって行く間、

ずっと、心臓が高鳴っていた。

一人暮らしをしている女の子の友達なんかいるわけもなく、

こんな時間に、女の子の部屋に行くのも初めてだった。

興奮というより、極度の緊張と言って良かった。

手は握りしめ、汗ばんだ。

とても、いけないことをしている感覚に襲われた。

ピンポーンッ!

呼び出しを押して、リョウ子さんが振返った。

ここだよ。

明かりが点いてるね。

コンコンッ、ミチコ、いるんでしょ。

大丈夫?

私よ、開けて。

ハーイという声がして、カチャカチャ、

チェーンロックの外れる音がして、ドアが開いた。

パジャマ姿のミッチャンだった。

リョウ子さん、どうしたの、こんな時間に。

何言ってんの、

あんたの事が心配で来たんだよ。

あ、ノッポ、、も、

こんばんは。

まあ、二人とも入ってよ。

ミチコ大丈夫なの、リョウ子さんが聞いて、

ミッチャンは、大丈夫と答えた。

ヒドイ感じではなかったけど、元気がある様にも見えなかった。

部屋は、1DKって呼ばれているやつで、

入ってスグ右に流し台があって、小さなダイニングテーブルが置いてあった。

奥は、大きめベッドの上に、ぬいぐるみがいくつか置いてあった。

ミッチャンは、ベッドの上に戻って行って、

その前にリョウ子さんが座った。

俺は、もじもじしながら、とりあえずダイニングの椅子に座った。

ミッチャン曰く、少し体調が悪くて休んだだけで、

特に大きな理由は無かったらしい。

二人が話しているのを少し聞いて、何か飲み物でも買ってくると外に出た。

パジャマ姿のミッチャンを見ているのが恥ずかしくなったのだ。

ふー、落ち着け、

たいしたことなさそうじゃないか、

安心したら緊張感が抜けて、余計にパジャマ姿が眩しく見えたのだ。

この辺りには、似たようなアパートが並んでいて、

ちょっと歩けば、自販機がたくさんあった。

カルピスウォーターとコカ・コーラを2本ずつ買って部屋に戻った。

二人は、マダムの話をしていたから、俺は、今朝課長に聞いた、

オットセイ部長の武勇伝を二人に聞かせて、みんなで笑った。

それから、1時間ほど、今日の事とか、バイトのみんなの話をして、

リョウ子さんが、じゃ、ノッポ、そろそろ帰ろうかって合図してくれて、

解散することになった。

リョウ子さん、来てくれて、ありがとね。

ノッポもね、、

ちょっと悲しそうに言うミッチャンに、

リョウ子さんは、いいよ、大丈夫。

明日は来るんだよね?

うん、たぶん大丈夫。

OK-、じゃ明日、待ってるからね。

ノッポ、行こ。

ミッチャンが内側から鍵をかけるのを確認して、

俺たち二人は、階段を下りて行った。

ノッポー、

ミチコ、ずっと泣いてたねー、あの感じは。

えッ、

分からなかった。

元気そうじゃなかったけど、泣いてたなんて、、

まあいいわ、明日、聞いてみるから。

ありがとね、ノッポ、こんな時間まで。

リョウ子さんと別れて、ずっと考えた。

泣いていたのかあ、どうしてだろう。

いくら考えても、分かるはずもなく、

妙に心臓がバクバクと変な音を立てて、何か嫌なことが起こりそうな気持ちにさせられた。

ミッチャン、だいじょぶかな、

つづく、、

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