【1.面接】駅裏 雀荘物語
たばこの煙がいつも充満していて、押し開きの扉が客を招き入れる度に、煙の塊が押されるように俺の座っている受付カウンターに降りてくる。
汚れがひどい蛍光灯の傘は外してあって、剥き出しの3本並びの蛍光灯が雀卓をそれぞれに照らしている。
店に入ってくるのは、大半が会社帰りのサラリーマンで、
一日中外回りをしていた割に、結構みんな元気でギンギンしているオヤジ達だ。
この頃は、みんなハイライトかセブンスターを吸っていたから煙も臭かった。
いくつかのグループの中には、社長と呼ばれている人達もいて、ちょっと怖そうなのも混じっていた。
ただ、その社長と呼ばれる人達も、大きな会社の社長じゃない。
八百屋、魚屋、呉服屋の店主達で、いわゆる、フィリピンパブなんかで社長さんと呼ばれている連中だ。
ま、ここは駅裏の雀荘、デカい会社の社長が来るようなところじゃない。
駅のすぐ近くという立地から、駐車場がいっぱいあって便利だし、終電ギリギリまで打てるからサラリーマンに結構人気があり雀荘自体は繁盛していた。
カラン、コローン。
扉が押されて、また客が入って来た。
あ、中村さん、こんちは。ちょっと早いじゃないですか。
今日は、まだ誰もお見えになってませんよ。
お茶入れます。
今日は、奥のテーブル席、取っておきましたから、どうぞ。
この中村さんは、ほぼ毎日来る常連さんだ。
おい、兄ちゃん、
カツカレー、一つな。
俺は、ここでは一番下だったから、誰彼無しに「兄ちゃん」と呼ばれて、かわいがってもらっていた。
俺がここのバイトを見つけたのは高二の時だった。
バイト雑誌のアルバイト欄に、初心者歓迎、週末もシフト制で働ける方とあるだけで、後の条件は無い。
年齢のところには、不問とあった。
へー、面白そうじゃんと公衆電話から電話を掛けてみた。
ガチャッ、
あー、もしもし、バイトの募集見て電話しているんですけど、、
電話口に出たのは、40歳ぐらいの主婦な感じの女性で、いくつか質問をしながら対応してくれた。
君、高校生なのね? 二年生かあ、、
たぶん、大丈夫だと思うけど、一応聞いてみるからちょっと待ってね。
課長さーん、高校生君がバイトの申し込みしてますが、どうしますか?
ああ、高校生でも構わんよ、週末働けるなら。
面接するから、履歴書用意してもらって、空いてる日、聞いといてー、
もしもし、聞こえてた? 大丈夫だって。
明日か、明後日、面接に来てほしんだけど、来られる?
はい、行けます。
あした、学校帰りに行きますので、夕方の4時ぐらいに伺います。
じゃー、4時に待ってるね。履歴書忘れないで。
チーン。
おー、なんかスムーズに面接してもらえる事になったぞ。
雀荘でバイトかあ。どんな仕事するんだろう。
翌日の面接は、電話の向こうで声が聞こえていたおっさん、島崎課長という人が担当だった。
雀荘の現場を仕切っている担当者らしく、ちょっと強面(こわもて)で、直球面接だった。
君は、働き者か?
頑張るつもりがあるなら、明日の金曜日から来てくれ。
金曜日は、お客さんが多いから忙しいけど、いい勉強になるよ。
出来れば、土、日も来てくれないか?
え、はい、土日は空いてますが、、
これ、面接なのか。もう、OKなのかよ。
働き者かと聞かれただけで、返事もしていない。
じっと黙っていたら、明日、土日の勤務、よろしく。
これで終わりかよ。
雀荘って言うから、もっと怖い人とか一杯いるのかと思ったけど、なんか普通だ。
バイトも、これが初めてじゃないし、ここは大丈夫と判断できた。
大丈夫です。土日もOKですし、まじめに働きます。
そんな、アルファベットの、Aの次がZみたいな短い面接が終了した。
その後は、少し世間話をして、バイト代の説明なんかを簡単にしてくれた。
ま、分からんことがあったら、あっちの梅ちゃんに聞いてくれ。
梅ちゃんとは、電話した時に対応してくれた事務の女の人で、川村梅子さん。
よろしくねー。
笑顔になると目が細くなって綺麗な大人の女性で、分からない事があったらなんでも聞いてねえと優しく声を掛けてくれた。
40歳ぐらいと思っていたけど、ぜんぜん若いかも、30歳ぐらいかなー。
分からないけど、まあいいや。こちらこそよろしくお願いします。
課長さんの話だと、このビル全体は会社の持ち物で、
1階が喫茶店で、
2階が雀荘。
3階がロッカールームと物置部屋で、その上の4~6階が事務所、7階が会議室と社長室という事だった。
今いるのは、4階の事務所にある応接セット、革張りのソファーに座って面接してもらっている。
課長さんが、面接に続いてロッカールームの場所を教えてくれた。
明日からはここを使ってと、ものすごく細いロッカーの、カギを一つ貸してくれた。
翌日、学校帰りに制服のまま雀荘の入っているビルの3階へ上がって、ロッカーを開けると白にブルーのストライプの入った襟付きシャツが用意してあった。
流石に制服姿でバイトをするのは躊躇われたから、ユニフォームを貸してもらえるのはありがたい。
バンッ、
ん?
ロッカー自体も細かったが、ロッカールームもまた細く、こちら側に12個、裏側に12個、合計24個が背中を合わせて並べてあった。
そのロッカーの裏側で別のロッカーの閉まる音がしたのだ。
誰かいるのか、
後で分かったことなのだが、このロッカールーム、入り口が2つあって、向かって右側が男性用、そして左側が女性用と別れていたのだった。
もちろん、男性側から裏側へ回る事はできないが、天井部分が空いているから、音はバッチリ聞こえる作りになっている。
このロッカーの向こう側に女性の更衣室がある。
ちょっとエッチな事を考えただけで、油断すれば直ぐグイグイッと下の方を盛り上げてしまう高校二年生。
何やら、楽しげな予感がしてきた。
狭いロッカールームを出ると、同い年ぐらいの女の子がタバコを吸っていた。
この子が、着替えてたのかあ。
ちょっと、目が合ったから、会釈した。
同じユニフォーム来ているし、先輩という事になるのかな。
少しためらっていると、
あ、今日から来るって言ってたバイト君か、聞いてるよー。
私、ミチコ。よろしくね。
あ、どうも、達也って言います。
すごく気さくな感じで挨拶してくれたから緊張感が一気に取れて行った。
じゃぁ、と先に行き掛けると、
まだ時間あるよ、吸ってきなよ、と言って自分の吸っていたタバコを渡してくれた。
ドキッ、
あ、ありがとう。
女の子からタバコをもらったのは初めてだったし、まして吸い掛けの口紅の付いたタバコを吸うのも初めてだった。
ドキドキしながらも、もらったタバコを、スー、ハー、と一息吸ってみた。
かわいいなあ、ミチコ先輩かぁ、もう、ちょびっとダケ、好きになったかもしれない。
つづく、、
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